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夏。 ギラつく太陽−−−。 ひとりの青年が東京湾の沖の方から波をグイグイかきわけて泳いで来るや、アッという間に晴海埠頭に這い上がった。 民川裕司。 立派な体格だが表情にはまだあどけなさが残っている。 | |
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そのまま東京のド真中へと向かい、『はとバス』の乗客にまぎれ込んで六本木に降り立ち、適当に歩き出した裕司は"ボーイ募集"の張り紙を見つけ、旨くその小さな喫茶店『パンの木』で働くことになった。 『パンの木』には、競馬狂のマスター・白井隆介、ハイミスのレジ係・芝淑江、それに若いバーテン貝塚吉夫がいる。 その吉夫と合部屋で生活することになった裕司は、吉夫が一流ポップシンガーを夢見て、15回もオーディションを受けたことを聞き驚くが、自分も芝居の世界で生きていくつもりで広島から家出して来たことを打ち明ける。 明るい希望に満ちていたはずの裕司だったが、ある日吉夫がレッスンを終えて部屋に戻ると、暗闇の中でうずくまっている。 眼の輝きは失せ、絶望の表情だ。 プロの芝居をたった一度観ただけで、自分の素質の無さを悟ってしまったらしい。 一方の吉夫は遂にテレビ出演が決まる。 5週勝ち抜けば本物のスターだ。 『パンの木』では吉夫といっしょに白木や淑江までハシャいでいる。 目標を無くした裕司はそれをボンヤリと眺めているだけだ。 そんな裕司に思わぬ幸運が訪れた。 『パンの木』の常連で裕司が憧れていた女優の野沢亜美から芝居見物に誘われたのだ。 亜美も素直そうな裕司に以前から好感を持っていたらしい。 | |
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しかし当日、亜美は恋人の急な事故で来られず、代わりに中年女・木村花江が現われた。 派手な容姿、しかも好色な振舞いを見せる花江に裕司は嫌悪感を爆発させ、逃げ出してしまう。 その夜、裕司と、あえなく落選してしまった吉夫は、酒をあおって夜のネオン街をうろつくのだった。 そんな調子でなんとなく『パンの木』を辞めた二人はライヴディスコのボーイになった。 ある時、裕司は吉夫をけしかけてディスコのステージに立たせた。 伴奏のギターは裕司である。 しかし数日後、マイクを握っているのは裕司の方だった。 客は裕司のリズム感溢れる歌いっぷりを選んだのである。 プロになりきった様な裕司。 今、彼は自分が本当に何をやりたいのかをハッキリとつかんだのだ。 | |
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間もなく裕司は二流プロダクションの部長・柴田にスカウトされ、吉夫と別れることになる。
柴田の誘いに飛びつき、デビューした裕司だったが、目指す音楽が柴田とは明らかに違っていたし、他のメンバーともうまくいかなかった。 そんな時、偶然に裕司はラジオ局で亜美と出会う。 女優とは無縁のDJの仕事をしていた亜美。 彼女は仕事に行き詰まりを感じ、ポルノ女優への主演を真剣に考えていた。 お互いをさらけ出し、熱く語り合い、そして自然に抱き合う二人。 それからふっきれたようにこう言い合った。 「俺、バンド抜けるよ」 「私も、きめたわ・・・」 | |
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その頃吉夫は既に<スター>になっていた。
演奏をバックに芸能界の悪態を機関銃のように喋りまくる<<毒舌タレント>>としてである。 バンドを抜けた裕司は苛立った日々を送っていたが、ある日、深水敬造の死んだ弟が作った音楽を聴いた。 「俺が求めていたものはこれだ!!」と眼前が明るく開ける思いの裕司は、これをキッカケに<<本当の音楽>>作りを決意するのだった。 | |
一年後−−−。 キリッとした姿、表情の裕司がレコード会社の階段を登って行く。 その眩しい世界へ、裕司は遂に第一歩を踏み込んだのだ。 そして裕司の音楽は脚光を浴びる。 勢いに乗ってアッという間にスターダムにのし上がっていった。 | ||
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そんな時に、吉夫の毒舌ショーがきっかけで裕司のスキャンダルがあばかれる!
亜美との関係、以前に吉夫と共謀した恐喝・・・・・・。 アッサリとレコード会社は裕司を見離す。 しかし裕司には<今>が大事なのだ。 18歳の今の、この時、一分一秒が・・・・・・。 |