TAKE IT EASY・EXTRA
TAKE IT EASY 制作ノート


けんか腰、二枚腰
丸山昇一


 この作品は制作宣伝のうえで"民川裕司シリーズ"といわれているが、
三作目の企画の最初から"民川裕司モノ"と決まっていたのではない。
 私も大森監督も岡田プロデューサーも、民川裕司は二作目の
「ユー・ガッタ・チャンス」でおしまいと思っていた。
 だから私は三作目の脚本依頼をうけた時、吉川晃司のキャラクターも
ストーリーも全く新しい、オリジナルプランをあたためて、五十枚の
プロットにして提出した。
 が、関係者からは何の反応もなかった。私としてはかなり自信のある
アクション篇だったのだけれどもテンから無視されてしまった。
(私はプロとしてデビューする前もした後も何本かのプロットを書いたが、
いまだに一本も採用されたことがない。プロット書きはほとほと性に合わ
ないらしい)
 で、エグゼクティブプロデューサー・渡辺晋氏の強い要請で、民川裕司
をフィーチュアして三作目を制作することになった。
 大森監督も私も、何となく最後は裕司をぶっ殺して北海道を主要舞台
にすることは思いついたが、ストーリーがほとんど何も浮かばない。
 例によって議論百出、成果は何もなく、またもや「とにかく私が何か
書いてきます」で悶々と三週間費やして、第一稿ができた。
 黙殺。
 ほとんど全面改訂の第二稿。
 黙殺。
 ほとんど全面改訂の三稿目。
各方面からわずかに反応がでる。それらの、多方面にわたる、かなり
無茶苦茶な意見を採り入れ、堪忍袋の緒をギリギリのところで裂かな
いで、第四稿を書いた。
 それがこの映画の原型になった掲載脚本である。原型といったのは、
実はこのあとにずいぶん違う最終稿が存在するからである。
 それは、ここに掲載した第四稿に大森監督が大胆に手を入れ、さらに
それに私が手を入れてできた珍品の決定稿なのだ。
 だがそれは映画を観てもらえばわかるものなので、掲載脚本は
「原型」の第四稿にした。
 ひとくちにオリジナル・シナリオといってもいろいろあるものなのです。

前回もそうだったが、今回は特に打合わせから何から本来プロデューサー
が処理すべき(と思う)問題まで首をつっこんで七転八起せねばならなかった。
脚本家は純粋に脚本執筆だけ全精力を傾けたいと思うのだけれども、
もうそういう優雅な時代ではないのかもしれない。
 私としては珍しく、「もうこの映画やめましょう」とか、岡田、中川
両プロデューサーにいろいろと悪態をついたが、そろそろ「喧嘩しない丸山」
のレッテルは貼がそうかとも思う。
そして、グチやエクスキューズを垂れ流す本誌への創作メモと称するものも
今回限りにしようと思う。−−んだけどもね、ね。

 脚本とは、脚本家とは、特に映画のシナリオとは一体何だろう。
 これだけ、本当に死ぬ思いをして原型をつくりあげても、最終的にスクリーン
に映る時はいともカンタンに似ても似つかないものになってしまう。
 そしてそのできたシャシンがそれはそれなりに面白いものに仕上がって
いると、ただただ溜息をついて手を叩いてしまうのである。
テイク・イット・イージー、よろしく。



(月刊シナリオ・シナリオ作家協会より)