『ユー・ガッタ・チャンス』 Monologue
#1


レールを外れなきゃ、新しい景色を見ることなんかできない

吉川晃司


やりたいことだけやってきた!


君、『すかんぴんウォーク』みてくれたかな。
主人公の民川裕司は、あれから一年、自分がやりたいと思ったことをやってきたよ。
もちろん、このぼくもね。
今度の『ユー・ガッタ・チャンス』では、ちょっぴり違った味のぼくをみてほしいな。

フランスの映画のスターでジャン・P・ベルモンドという人がいる。
東京に出てきてからいろんな映画をみたけれど、いちばん印象に残っているのがベルモンドの映画だ。
彼のデビュー作『勝手にしやがれ』は強烈だった。
最後まで大人の世界に反抗して、自分の生きたいままに生きて死ぬ青年の姿にはしびれてしまった。
過激なくせに、粋でおしゃれで、そのうえ、男のロマンがある。
もちろん、フェミニストでもあるっていうのがベルモンドだ。
やたら女の子にもてるっていうのも最高だよ。

別にベルモンドを意識したわけじゃないんだけど、二作目では、ちょっぴり裕司の中にそんな雰囲気をただよわせてみたいと思った。
でも、やっぱり裕司はそれほど跳べない役どころだ。
裕司は、ぼくがいてはじめて存在するから、みる人はまずぼくを意識するはずだ。
あたりまえのぼくが、いかに裕司を作っていくか。
映画を作る大森一樹監督との真剣勝負だ。
これこそ、ぼくが肌で感じた映画作りというものだ。

ぼくがぼく自身を演じる。
ひじょうに簡単なようで、実はひじょうにむずかしいことなんだ。
ふだんはあれこれ深く考えないようにしているんだけど、この時ばかりはいろいろ頭を悩ませた。

けれども、考えてばかりいてもどうにもならない。
いままで通りにやりたいようにやるしかないって思った。
とにかく目いっぱい、ぼく自身をスクリーンにぶつけてやれって思ったんだ。

ぼくは、今回の裕司を演じるためにやせる努力をした。
ひとりの人間が、この一年間どんなに苦労してきたかを表現したかったからね。
だからやせてみせた。
今回は、そんなカッコウの悪いぼくをじっくりみてほしいな。

正直に言うけれど、ぼくはデビューからこの一年、何か大事なものを見失いかけてたような気がするんだ。
大事なものっていうのは、自分がやりたいと思うことに素直になるってことさ。

それがぼくのテーマだったんだけども、ついつい見失いそうになっていたんだ。
『ユー・ガッタ・チャンス』のシナリオを読んだ時、ぼくはそのことに気づいた。
痛いところを突かれたようで思わず興奮してしまった。

気づいたとたんに、おもしろ味というやつが出てきたね。
これは一作目の撮影では経験できなかったことだ。
裕司以上の裕司がスクリーンで動きまわっているはずだ。
もし、第三作目を作ることになったら、今度は遠慮しないでもっともっと跳んでみせるさ。
ぼく自身を越えて、あこがれのベルモンド風な映画にする自信があるよ。

はっきり言っておくけど、ぼくは役者じゃない。
こんなこと言うと、あいつは生意気だというかもしれないけど、ぼくはあえて言う。
 
ぼくは映画でもやりたいことを精一杯やるだけなんだ。