■1985.8 K2
黒いポリエステル製の砂糖袋と折りたたみ式
の槍を持った、羽根を持たない羽根アリたち。
やたら頭デッカチで、手足が妙に細長い彼ら
は、四角いステンレスでコーティングされた
鉄の箱に詰め込まれて運ばれていく。
この鉄箱、両サイドの壁には、窓のような50cm
四方のスクリーンが横一列に何枚もはりつい
ている。そのなかには、緑や川や街並みは流
れていく風景のアニメーションもどきが写し
出されている。
不思議なことに、それは見ようという意志を
持たなくても、勝手に眼前を通りすぎてゆく。
しかしはっきり確認できる物は何もない。
スクリーンの外の部分には、余すところなくア
ドバタイジングがあふれていて、それらは赤
や青や黄色で派手にデコレーションしてある。
しかし、どのそれを見ても文頭に大きな文字
のタイトルが書いてあるだけで、通常文字が
あるべきはずのないスペースには何も書いてな
い。
不思議なことだと思うけど、友人の羽根ア
リにいわせると、確かにこれはコマーシャル・
ペーパーなのだそうだ。内容はともあれ派
手なタイトルがおもしろいのだ、ともいった。
どうもこの世界では、これらを見てワイワイ
と騒ぐことが日常生活の娯楽として欠かすこ
とのできないものになっているらしい。
鉄の箱が止まった。
左側のドアが開いて3人降りたあと、白髪の
老いたアリが乗ってきた。彼は手すりにしが
みついて、おぼつかない足取りでなんとかか
ろうじて立っていた。
私は、彼をしばらく観察してみた。
周りのアリたちはなんとも思わないだろうか
と思いながら……。
でも、何分たっても、変化がない。私は不思
議になってふと周りを見渡して見た。
「あれっ!!」
みんないつの間にか眠ってしまったらしい。
仕方ないので、私は彼に席をゆずることにした。
「あれっ!!」
みんな目をさましている………………?
また鉄の箱が止まった。
今度は、右側のドアが開いて、3人降りよう
とするところに、くわえタバコのアリが乗っ
て来た。彼は、黒いポリエステル製の砂糖袋
も折りたたみ式の槍も持っていない。不確か
な足元をひきずるように歩いてきた。
「あれっ!!」
またいつの間にか
みんな眠ってしまったらしい。
仕方ないので、私が禁煙を注意することにし
た。
と、突然、目の前に火花が走った。
“パチッ!!”
気がついてみると、
「あれっ!!」
またいつの間にか眠っていたはずのみんなが
起きて、クスクス笑っていた。
あれから2年たちました。最近、私にも妙な
クセができました。
よく、いつの間にか眠ったり覚めたりするの
です。