■1985.9 K2
小さな赤い綿のジャケットのポケットにせい
いっぱい夜をしまい込んで、心にネオンの灯
を写している。
この街は、さまざまな色と形をしたネオンサ
インがまぶしいほどに輝いて、とても美しい。
しかし、それは、地上10mの空間。この地上
は驚くほどに暗いことに君はまだ気付いてい
ない。ただ、君は、ネオンサインを写し出し
ているだけなのに……。

泥酔して腹わたまでも吐き出しているネクタ
イ野郎達。刺青のジプシー。優しいイミテー
ションの瞳をしたコムデギャルソン。

この先に、どんなものがあるのか知っている
のかい、君は。

安もののウイスキーに黄色いポップコーンさ。
やさしく傷つけるくたびれたジャズバンドさ。

君も、12時になったらあの交差点に集まって
いる夜のシンデレラ達のように、街に身売り
すればいいさ。

この街じゃ何も生まれないんだ。何も育たな
いんだ。これまでも、これからも、きっと永
遠に。
なのに、多分、音楽は君を踊らせてしまうに
違いない。そして君は、赤いドレスで悩殺す
る気かい?

ああ、もう見ちゃいられない。

あまりの数のヘッドライトに君は目がくらみ、
進めない、戻れない、振り切れない。
持ちこたえなきゃだめだ。
気をゆるめたら終わりさ。
気を失ってしまうよ。

こんな街の夜で、こんな街の奴等は、誰も助
ちゃくれない。

そんなちっぽけな金で売り払ってしまうのか
い?
ウソを手に入れて、代わりに魂を売り払うの
かい?
ちっぽけなやすらぎのために。
ただ逃げ続けるために。