Vol.20  1987.10
#1




HOT & HAPPY
無邪気な笑いに象徴されるリアルタイムの素顔

10月15日AM11:50。
約束の時間、10分前、「こんにちは。」……という声がするまで気付かなかった。
そこには黒いジャンパーにズボン、黒ブチのメガネ・ペタ靴といつものいでたちで、晃司がポツンと座っていたのだ。
寝起きで、ちょっぴり眠そうな眼。
こころなしか、色白になった気がする。
そういえば、あの熱かった真夏の祭典からもう2か月なんだ。
6月から始まったアルバム制作。
4か月間の全力投球を経て、5日前、全ての作業が終わった。
今日から6日間は取材日。
我がFLEET K2はそのトップバッターとなった。
晃司は、自分で整理しながら、言葉をひとつひとつ選んでいるようだ。
そんな中、始まって10分もたたないうちに椅子の上であぐらをかき、次には膝を抱えこむ、長い脚を何だか邪魔そうに組む。
「時間ないから、今メシ食ってもいいかな?」と言って、焼き肉弁当をガツガツ食べ、30分もしないうちに「う〜、気持ち悪くなっちゃったよ〜」と子供がダダをこねるような仕草をする。
自称「小心者」(?)晃司くんの"照れ隠し"なのかな。
11月21日、私たちのところに届く6枚目のアルバム。
そのへんをブラブラ歩いている、等身大の晃司くんがそこにいる。

「『モダンタイム』の頃から、僕自身が思う事・感じる事・こうあるべきだと思うことを書きたいな、と思う様になって……。
今まで、現実的すぎてると思ってた言葉も違和感なく書けるようになったな、って思
う。」


テーマは"男としての存在感""スケール感"。
『A-LA-BA・LA-M-BA』のレコーディングの後、イタリアやロンドンのスタッフと触れて肌で感じ取ったWORLD WIDEのスケールの大きさをどう表現できるか。
だから、コンセプトは吉川晃司自身。

「曲のタイトルは、詞を書く前に考えてある。
こういうことをいいたいんだけど、っていうのをまずタイトルにはめこんでからその中にキーワードを並べていく。
詞を書くのはそれから。」


この中に、晃司の詞は8・曲は9入った。

「"詞"っていっても、思った事をパアーって書く感じかな。
NEW YORKで書いた詩は今まで書けなかったものも随分あったんだけど、逆にあまりにリアルになりすぎちゃった。キー(プロデューサーの木崎さん)も『晃司の言いたいことは凄く分かるけど、リアルすぎて人には伝わらないよ』って。
それで、全部書き直した。
良い要素は残してね。
いい意味でも悪い意味でも、書いてると先にある一点しか見えなくなちゃうんだ。
それを、周りにいる人達がほぐしてくれたり……。
今回、ボーカルを明日からとらなきゃ間に合わないって時に、詞がひとつしか出来あがってなくて、スタジオに入って歌う直前に完成させたりね。
ようするに、"言葉遊び"が難しい。」


「でもさあ……。」と晃司は一瞬うつむいてバッと顔をあげると、ニヤッと笑い、声をうわずらせて言うのだ。

「性格的にもビシッと作っていくタイプじゃないからさ、結構いつもイイカゲンだったりして…。
80%くらいね。」