TAKE IT EASYEXTRA Story

scenario2 #1
第四稿(月刊シナリオ・シナリオ作家協会版)

空−−星屑がボンヤリとにじむ都会の夜空に、囁くように「イノセント スカイ」が聞こえてくる。

     流れ星だろうか、光の玉がスーッとよぎる。


野外コンサート

     歌う、民川裕司。


同・ステージ裏

     コンサートを終えた裕司、ぐったりとうずくまる。     (O・L)


パーティー−−タイトル・シーン

     裕司。
     蠢めき漂う人々のはざまに、坐っている。
     客がひっきりなしに彼に握手を求め、ジョークを飛ばし、キスする女性もいる。
     いちいち軽い笑顔でグラスを掲げてこたえる裕司。
     充足感と疲労、しのびよる虚無。
     奇妙な倦怠のなかで、中に浮いたような裕司。
     そこは青山あたりの、現代の最先端を気取る者たちの酒場。
     蠢めく、超ファッションの男と女。
     作詞家、評論家、デザイナー、さまざまな分野のスノッブたち。
     キャビアを頬張る口。
     グラスの酒を煽る口。
     笑う口。囁く口。歌う口。
     イヤリング。ブレスレット。指輪。
     ラメ入りシャドウ。
     シーンから会話が低く流れている。
女A  「例えば三島よ」
男A  「三島ね。いい線だ」
女A  「彼を見てから死んでほしかったわ」
男A  「あと三本は小説書けたかもしれない」
男B  「そろそろナイルにコネクションした方がいい」
男A  「ナイル?」
男B  「ナイル・ロジャース」
男C  「ああ、ボウイの」
男B  「やミック、最近じゃマドンナのプロデュースしている超人だ」
男C  「そこまではちょっと早すぎるんじゃない」
男D  「コンセントレーション。裕司の一番いい所はそれだ」
女B  「特に知的集中力」
男D  「ザ・パワー・オブ・インテレクチュアルコンセントレーション」
女B  「かつてボブ・ディランがそうだったけど、あれ以来の逸材ね」
男D  「あれでまだ二十歳だからな」
女B  「くる所まできたみたいね」
男D  「だけど本当の本物かどうか」
女B  「別問題」
男D  「そういうこと」
     不意に、客たちが裕司の方を見る。
     裕司が涙を浮かべている、とめどなく涙が流れる。
     お喋りや動きをとめて、裕司を見る客たち。
     誰もが多感でナイーブすぎるこの青年を理解できない。


白々と濁った空に、半弦の月がうすくにじんでいる

裕司の声 「ぼくのことはどうでもいいじゃない。自分のことを話してくれよ。
        自分の夢、自分の愛、自分の家族。
        ……そうすればぼくも心を開いて何でも話すよ。友達になれるよ」
     夜明けの大都会。
     ポツンとひとり、裕司がさすらっている。
     裕司、ウッ屈した焦立ちを弾き飛ばすように、鋭く短く野性の叫びをあげた。