TAKE IT EASY・EXTRA Story

scenario2 #2
第四稿(月刊シナリオ・シナリオ作家協会版)

一面のスカイブルー

     そこに巨大な人間の目が光り、銀色の野性獣が飛びかかっている。
     −−を背景に、スッと少女が横切る。
     草野つみき。
つみき 「お帰り!」
     そこはマンションの玄関ホール。
     戻ってきた裕司、ホールの壁や天井に描かれた画(?!)を見ている。
裕司  「また塗り替えたのか」
つみき 「うん、おととい。どう?」
裕司  「シュールだな。十四歳の」
つみき 「シュール、何、それ?」
裕司  「おやじさんは」
つみき 「学校」
裕司  「あ?また呼出しか」
つみき 「教室中全部塗り替えたの。ローズピンク」
裕司  「あのなァ……」
つみき 「絶対喜んでくれると思ったのにさ。
      なんでパパさんがお目玉くうのかわかんないよ」
     呆れる裕司に、つみき、管理人室の郵便物を渡す。
つみき 「昨日届いてた」
     ニューヨークからの小包み。


同・マンション・ラセン階段

     裕司と、ペイント缶と絵筆を持ったつみきが登ってゆく。
     歩幅が合わないので、つみきは駆けるようについてゆく。
つみき 「ね」
裕司  「あ」
つみき 「ニューヨークの公演、決まったの」
裕司  「(頷いて)子供にゃ関係ない」
つみき 「ア、またカッコつけて」
裕司  「なんだよ」
つみき 「"うん、決まったよ"って素直に言えばいいじゃない。
      しっかり大人大人しちゃってさ。だから誤解されんのよ、若い子に」
裕司  「黙ってろ、顔だけ宇宙人」
つみき 「なによ、足だけ宇宙人」
     階段の途中の、白い壁。
     又も不思議な絵が、半分ほど描かれている。
     つみき、絵筆で描き始める。
裕司  「おいおい、家主の許可もらったのかよ」
つみき 「そんな暇ないわよ。今朝パッと浮かんで」
裕司  「そこ描け、ワンワンか」
つみき 「どんどんどんどんイメージ湧いて、勝手に手がうごいちゃう」
     滅茶苦茶なスピードで壁を塗ってゆく。
裕司  「……まったく」
     裕司、上の階へ登ってゆく。
つみき 「なんかひらめいた」
裕司  「(ウンザリ)ひらめけ、ひらめけ。今度は何だ」
つみき 「(幼い霊感を必死にまさぐる)部屋に入ったらね。
      ……電話くるよ……出ちゃだめよ。爆発するから」
裕司  「(ヤケくそ)おお、コワーッ!」


同マンション・裕司の部屋

     裕司が入ってくる。
     ワンルームの、広い部屋。
     電話が鳴る。
     思わず苦笑して、電話を見る裕司。
裕司  「(ブツブツ)爆発だ!!」
     電話器を肩にかけ、小包みを開ける裕司。
裕司  「はい」
マネージャーの声 「何してる?」
裕司  「ニューヨークのガールフレンドから何か送ってきた」
     傍に、ヤンキーガールのピンナップ。
マネージャーの声 「そのニューヨークの話だ」
裕司  「イェッ。この娘も待ってるぜ」
マネージャーの声 「公演が中止になった」
裕司  「−−!」
マネージャーの声 「プロモーターのロビンソンから連絡が入って……シンガーとしてはともかく、
      まだ世界に通用するアーティストじゃないそうだ」
裕司  「たったそれだけで中止?」
マネージャーの声 「しょうがないだろ」
裕司  「コケてもともと、どれくらい通用するか確かめに行くんじゃなかったの」
マネージャーの声 「失敗は許されないんだ。どれだけ金がかかると思ってるんだ」
裕司  「簡単につぶすなよ」
マネージャーの声 「スケジュールあいちゃったな。どうする?」
裕司  「たった一人でもニューヨークで俺を待ってるやつがいるんだ。俺は行くよ」
     受話器を置く。
     小包みを開けた−−途端に、バーンと破裂。
裕司  「−−!」
     粉と紙吹雪が飛ぶビックリ箱。
     LONG GOOD-BYE
     と手書きされた旗が立っている。
裕司  「……」
     ひっそりと嗤う裕司。
       × × ×
     裕司、窓際で空を見ている。
     ドンヨリと曇って、味気ない。
裕司  「……ロング・グッドバイ。長いお別れ。永遠のさよなら」


ニューヨーク

     その空−−
裕司の声 「遠すぎるのかな、……俺には遠すぎるのかな」


マンション・裕司の部屋

     ビリッとピンナップを引き裂く裕司。
     辺りの物を手で払い落とす。
     足で蹴る。
     怒りとショックをどうまぎらわしてよいかわからない。
        × × ×
     ヘッドフォンでテープを聴いている裕司。
     いきなり、ヘッドフォンを投げつける。
     何枚かのレコードが割れる。
     冷蔵庫を開ける。何も入っていない。
     カラのビール缶が山のように並んでいる。クソッたれ!
        × × ×
     部屋の模様替えをする裕司。
     とり憑かれたように動き回る。
     突然、むなしくなってやめる。
        × × ×
     ベッドに呆けたようにうずくまっている裕司。
     四角のコンクリートの壁で、閉塞され、窒息しそうな裕司。
     二十歳になったばかりのこの青年は、突然思い通りにいかなくなった事態に、
     うろたえるばかりである。