TAKE IT EASY・EXTRA Story

scenario2 #3
第四稿(月刊シナリオ・シナリオ作家協会版)

同・ラセン階段

     旅支度の裕司が下りてくる。
     途中のステップに、つみきがションボリ坐っている。
     壁の絵は完成している。
裕司  「どうした」
つみき 「……怒られた」
裕司  「……ジーザス」
つみき 「こんなの汚いだけかな」
裕司  「……いや……涸らすなよ、せっかくの夢」
つみき 「他に描く所ないもん」
裕司  「俺の部屋の壁使え」
つみき 「ウソ、ホント?!」
裕司  「ああ。暫く留守にするから」
つみき 「(ギクッと)どこに行くの」
裕司  「どこでもいいよ。なんかもう、いやになったよ、いろいろ」
つみき 「どうしたの」
裕司  「ちっぽけなもんだよな、いざとなると」
つみき 「それ、裕司のこと言ってるの」
裕司  「……ひとりぽっちだ」
つみき 「……似合わないよ、ヤケっぱち」
裕司  「どこか空のきれいな所、行ってくる」
     裕司をジッと見つめるつみき。
つみき 「北の方へ行っちゃダメよ」
裕司  「なんで」
つみき 「死んじゃう」
裕司  「……(口笛)」
つみき 「ヘンな、荷台のくっついたバイクみたいなんで……走って……
      走りつづけて……死んじゃう」
裕司  「荷台のくっついたバイク?」
     裕司、フッと壁の絵を見る。
     それは広い大地に、そらとポプラと牛とサイドカー。
     伏せて死んでいるような足の長い男性が描かれている。
     傍でつみきに似た少女が見下ろしている。
裕司  「……」
つみき 「昨日裕司の公演見に行って、ずっと見てて、夜ベッドに入って、
      急に浮かんだんだよね、こんな絵。ビックリした。
      裕司、死んじゃってる」
裕司  「面白いじゃない。それ、面白いよ」
つみき 「何言ってんの」
裕司  「(絵を見て)これだと、つみきに殺されるみたいだな」
つみき 「馬鹿。行かないで。北の方には絶対行かないで」
     裕司のバッグを引張る。
裕司  「……大丈夫だよ。電話はかかってきたけど、爆発なんかしなかったぞ。
      つみきのカンはその程度」


走るタクシー・車内

     後部座席の裕司、?となる。
裕司  「停めてくれる」
     近くの中古車ディーラーに、売り物の古いサイドカーが陳列されている。
     見つめる裕司。
裕司  「……顔だけ宇宙人」
     カーラジオ。
女性DJ 「以上、交通情報でした。相変わらずというか、十年一日というか都内の渋滞もひどいもんですね。
       じゃここでスカッとしましょうか。昨夜行われました民川裕司の野外コンサートのテープ、
       早くも手に入りましたよ。最初はこの曲から」
     カーラジオ。ライブテープの大観衆の拍手と歓声。
     画面が暗くなる。     (F・O)


暗黒の画面に−−

     大歓声がつづいて。
     ブル!ブル!とエキゾーストノイズの音が響く。
     画面に、サッと大量の光が差込む。
     その光の中へ、ダッとオートバイ(サイドカー)がダッシュする。
     フェリーの船倉から埠頭へ。
     叩きつけるように、裕司の曲、イン。