TAKE IT EASY・EXTRA Story

scenario2 #5
第四稿(月刊シナリオ・シナリオ作家協会版)

道端

     停めたサイドカーで休息している裕司。
     数日の一人旅で、顔も服もバイクも埃にまみれている。
     突然、改造したバイクやジープの一団が猛スピードで走ってきて、去る。
裕司  「……」
     続いて、馬が一騎、一団を追いかけるように全速で走り過ぎる。
     馬上の男は、仲根。
     ポカンとして見送る裕司。
裕司  「……西部開拓史か」


牧場

     サイドカーを停めて、下りる裕司。
     木造りの家。
     牧舎。
     サイロ。
     乳牛のなき声はするが、人の気配はない。
     裕司、見回して首を傾げる。
     井戸水で顔を洗い、口をゆすぎ、呑む。
     と、−−どこかで人の呻く声がする。
裕司  「……?!」
     歩く。探す。
     建物の裏手。サンドバッグが吊してある。
     男が一人、倒れている。
     裕司、駈け寄って助け起こす。
     男の顔は殴られて赤く腫れている。野村圭吾。
裕司  「よォ。どうした」
     圭吾、意識が戻った途端、裕司の背後を見て、ビックリして失神する。
     裕司、振り返る。
     その鼻先に、馬の鼻ズラ。
裕司  「−−!」
     馬上の男は、仲根。
     裕司をジッと見下ろす。
     見返す裕司。
     間。
仲根  「何か言えよ」
裕司  「何て?」
仲根  「普通、こんにちわってんじゃないか。世田谷ナンバー」
        × × ×
     世田谷ナンバーのサイドカー。
     戻ってくる裕司と仲根。
裕司  「ケンカ?!オールナイトで?」
仲根  「まァな。遊びつうか、まァゲームだな」
裕司  「毎晩?」
仲根  「どっちも暇な時な」
裕司  「水もらったよ」
仲根  「ああ」
裕司  「近くにメシ喰う所ないか」
仲根  「あるよ。20km先」
裕司  「(肩をすくめて)……ありがと」
     サイドカーに乗り込む。空腹でフラッとする。
     腹の虫がグーッと鳴る。
     馬が笑うようにいななく。
裕司  「(馬に)どういう性格してんだ」
仲根  「(笑って)まずいメシでよかったら喰ってけよ」
裕司  「……」


牧舎

     乳牛の乳を絞る仲根。
     入口で見ている裕司。
仲根  「親父も兄貴も投げ出しちまったんだ、ここ」


木造りの家の中

     簡単な朝食と巨大なジョッキの牛乳。
仲根  「呑めよ」
裕司  「太るもんはダメ」
仲根  「ほう?−−絞りだて」
裕司  「駄目なもんは駄目」
仲根  「ボクサーじゃないんだろ」
裕司  「なんで?」
仲根  「(自分をこなして)ボクサー」
裕司  「……(ジッと見て、頷く)通理で」


牧場の入口の看板

     KO牧場


木造りの家の中

裕司  「ありゃあ。十二戦目でKO負け」
仲根  「いろいろあってさ、トレーナーぶっとばしたらライセンスもとられちゃって……
      まァリングはアメリカにもあるしね。
      カムバックしますよ」
裕司  「じゃ、なんでこんな所に?」
仲根  「……なんでこんな所に?」
裕司  「(考えて)……空。見たくってな。」
仲根  「それだけか」
裕司  「あと、……死ぬかもしれないって言われた」
仲根  「こっち来りゃ?」
裕司  「こっち来りゃ」
仲根  「面白いじゃない」
裕司  「な」
仲根  「先、急ぐのか」
裕司  「別に」
仲根  「ビールつきあえよ」
裕司  「いつ」
仲根  「夜」
裕司  「まで?」
仲根  「待てないか」
裕司  「気分次第」
仲根  「最近うまいビール呑んでない」
裕司  「そっち、減量中じゃないの」
仲根  「太れば減らすだけ」
裕司  「……」
仲根  「東京のジムこもってる時は、ただ絞るだけ絞るって毎日でな。
      一番大事なものまで絞りきっちゃったんだわ」
裕司  「結果は十一戦全勝のあとの一敗か」
仲根  「ああ」
裕司  「一番大事なものって何だった」
仲根  「……ああいうの何て言うんだろうな」
裕司  「何だろうな」