ユー・ガッタ・チャンス Story
scenario #1

東宝マーク−−−ダブって拳銃の装填の音が響く。
三発の銃声に製作会社のタイトル。



[1]地下鉄のトンネル
    風が通り過ぎる闇の中。
     トレンチコートの男が銃を構える。
     男の姿を標的にした銃口が動く。
        ×  ×  ×
     地下鉄の電車の中を、何かに追われるように必死で逃
     げる裕司
        ×  ×  ×
     トンネルの中。
     荒い息で殺し屋を待つ裕司。
     手にはマグナム。
     裕司の気持ちを高ぶらせる様に電車の音が近づいてくる。
     殺し屋が姿を現す。
     通りすぎる電車の轟音と灯り。
     裕司、飛び出して射つ。
     しかし、一瞬早く、殺し屋の銃が火を噴く。
     のけぞるように倒れる裕司。
     デジタルの時を刻む音が響く。
     殺し屋、倒れている裕司に近づき裕司の腕から時計を
     奪う。
     音楽、高まって−−−。
     −−−字幕。
     「今、狙われる男、民川裕司」
     「今、狙われる時計、カシオ」



[2]横一列に坐った男たち
    スポンサーの広報部長・青木を真ン中に、代理店の男
     (沢村)たち。
     全員、青木の顔色を窺う。
     後ろの席に裕司のマネージャー、間島健。
     試写室。
沢村「なかなかのもんでしょ」
青木 「(渋い表情で)しかし、商品をつけたタレントが殺されてし
     まうってのはどうもね。
     もう一本あるんだろ?」
沢村 「ええ……」
     間島に合図を送る。



[3]試写室の外
   青木が、沢村と出てくる。
青木 「今のでいいじゃないか。なんで最初の撮らせたんだ。ム
     ダ金使いやがって」
沢村 「いや、わがままをきいてやらないと、あの男は」
青木 「たかが映画一本しか撮ってない監督になんでそんな気を
     つかうんだ」
沢村 「その一本がニューヨーク映画祭のグランプリですからね」
青木 「グランプリ?大衆はシランプリだったじゃないか。コケにコ
     ケて」
     ソファで退屈そうに待っていたディレクターの合田、立ち
     上がり、
合田 「どうも」
青木 「(ギクッとするが愛想笑い)どうも!次の映画早く撮って
     下さいよ、ファンなんだから!」
合田 「五億出してよ、五億」
青木 「(ドギマギして間島に)裕司によろしく」
間島 「どうもありがとうございました」
     青木ら、去る。
合田 「タコ!!」
間島 「(苦笑)監督、ホントこの度は裕司が大変お世話になりま
     した。二つとも最高ですよ」
合田 「最高だろ、あたりまえだよ、あいつは百年に一人出るか出ない
     かのタマだからな」
間島 「合田さんにそういっていただけるととっても光栄です」
合田 「何たって四次元の感性、五次元のパワーだからよ……
     (陶然と)」



[4]屋外ホール
    ステージにスモークが流れ、爆発の閃光!!
     超満員のホールで「モニカ」を歌う裕司。
     −−−メインタイトル『ユーガッタチャンス』
     以下、キャストタイトル流れる。



[5]地下都市のホテル・特別室
    素顔の裕司。
     鏡で自分の顔を見ている。
     ジッと見入る。
     ジャケットをスルリと脱ぎ、落とす。
     靴を丁寧に外す。靴下を脱ぐ。素足。
     またジッと鏡を見る。
     ノックの音。
     誰かが入ってきたようだ。
     裕司、ドレッサールームからソッと出てゆく。
     間島が広い部屋を歩き回って、裕司を探している。
     裕司、間島の背後にピタッと寄り添って歩く。
     分厚いじゅうたん。
     間島、首をかしげて出てゆこうとする。
     肩をすくめる裕司。
     間島、急にUターンして、ドレッサールームへ。
     裕司、こけそうになるが、やはりソッとつけてゆく。
     間島、ドレッサールームを探す。
     その鏡−−間島の背後に、裕司。おどけて。
     鏡の中で見合う間島と裕司。
間島 「(苦笑)……他に娯楽がないからな」
     窓から、外の光景。
     ホテルを裕司のファンが取り巻いている。
     見下ろしている裕司。
     窓際の壁に凭れている。
間島 「裕司よ、武道館公演、決定な」
裕司 「……素敵だね」
間島 「CFは来月からオンエア、決定」
裕司 「イエーッ。地下鉄のやつ、みんなぶっ飛ぶぜ」
間島 「いや。南の島のやつ。あれがベストだ」
       ×  ×  ×
     CMコマーシャル。南の島−−−。
     ギラリと太陽が輝く。
     可愛らしい少女(セリカ)と少年(ターボ)が貝殻で日時計
     をつくっている。
     裕司の影が3時を指す。
     裕司の笑顔。
     −−−字幕。
     「今、ナンジ?」
     「今、ユウジ!!」
       ×  ×  ×
裕司 「監督もそう言ってた?」
間島 「いや監督以外は、みんな南の島のやつをかってるんだ。
     俺も会社もだ。あれはウケるよ」
裕司 「……ただウケればいいの?」
間島 「今はな。ビッグになるぞ、裕司、確実だ」
裕司 「……ホントにそう思う?」
間島 「うん」
     部屋をゆっくり歩き回る裕司。
裕司 「武道館を一杯にして、日本で一番大きな時計屋さんの
     CMに出て、一日五百枚のサインを書いて、……最高だけ
     ど……そのあと何が残る?」
間島 「そりゃさ、たいしたもんじゃないの」
     裕司、また別の壁に凭れる。この男は余程のことがない
     と坐らない。
裕司 「監督に電話したよ」
間島 「……」
裕司 「向こうから何回も合わせろって言ってるのに(間島を指差
     して)カットしてるんだって」
間島 「スケジュールが都合つかないだけだ」
裕司 「仕事じゃないよ。プライベートだよ」
間島 「このさいだからハッキリ言っとくけどよ。あの合田さんてい
     う人さ、今の裕司には一寸毒が強すぎると思うんだ。二
     人っきりで会うのはやめろ」
裕司 「おっとォ!会った方がいいか悪いか、決めるのは俺なん
     じゃない?」
間島 「おっと三年たったらな」
裕司 「高校行ってんじゃないよ」
間島 「そうだよ。俺だって裕司の教師じゃないぜ、高校の。俺は
     裕司のマネージャーだよ」
裕司 「(苦笑)……何もできないよ。……いつもカンヅメにされて、
     ……外の空気も吸えなくて……
     (左胸をおさえて)カサカサだよ」
間島 「うん……なんていうか……そういう時もあっていいんじゃ
     ないか」
裕司 「イヤじゃないよ。だけど……僕の歌を聴いてくれいる人た
     ちと同じ空気を吸ってなきゃ、
     結局一人一人のハートを刺せないんじゃないかな。時々
     ステージでそう感じることがあるんだ」
間島 「……裕司」
裕司 「……」
間島 「……」
裕司 「一人にして」
     間島、ファンレターの束を机においてドアへ向かう。
間島 「冷房ききすぎかな」
裕司 「切って」
     間島、冷房をOFFにして出てゆく。
裕司 「ありがとう」
間島 「おやすみ」
     裕司、壁に凭れてボンヤリしている。
        ×  ×  ×
     一時間後。
     そのままの姿勢の裕司。顔やシャツにビッシリ汗が張り
     ついている。何かにジッと耐えてるかのよう……。
     テーブルに一通のファンレターが開封されている。
     −−−外の路上、立ち去らぬファンの群れ。
手紙の声 「民川裕司様。私は16歳の女子高にいっている女の
        子です。私は裕司の汗が好きです。
        でも−−−こんなこというと裕司を不愉快にさせてし
        まいそうなんだけど、−−−もっと笑顔を見せてほし
        いのです。19歳の、素直な、くったくのない笑顔です。
        裕司、今のままだと私、ついてゆけそうにありませ
        ん。なにかいつも無理して背伸びしてるようで、時々
        こわくなる事があります」
裕司 「……(複雑な思いで)」