ユー・ガッタ・チャンス Story
scenario #2

[6]同・外の廊下
      裕司が出てくる。
      張り番のガードマン(野末)が近づく。
野末 「どちらへ」
裕司 「メンバーの部屋」
野末 「皆さん、外へおでかけになりました」
裕司 「じゃ、僕も出る」
野末 「困ります」
裕司 「なんで?放っといてよ」
野末 「警察から内々に連絡がありまして、民川さんがいったん
     町へ出られますと、ファンの少女達が遅くまで繁華街を
     探して歩くことになりますので風紀上好ましくないと」
裕司 「……(ムッと)」


[7]同・屋上
     裕司がブラブラ歩いてくる。
     地方都市の夜景−−−。
     裕司、風に吹かれて一人ぼっち。
     と−−−、ヒソヒソと話声がきこえる。
     屋上の隅に、数人の女の子が集まっている。
     カメラやマイクを長いロープで固定して裕司の部屋の
     外まで垂らし、リモートコントロールで撮影、録音してい
     るのである。
女の子1 「もう寝ちゃったかしら」
女の子2 「電話の声とか撮れないかな」
女の子3 「ね、パジャマだと思う?」
女の子4 「スッポンポンだったりして」
     キャッ、ウソと湧く女の子たち。
     離れた位置から見ている裕司。
裕司 「……(怒りと悔しさと)」
     決心して、ゆっくりと歩み寄る。
     女の子一人が気づいた。
     他の女の子たちも気づく。
     驚きとショックで息もできない。
     女の子たちを直視したままの裕司。
     女の子たち、震えて……泣く。
     クールに見つめつづける裕司。



[8]暴風雨のジャングル
     荒れ狂う河の中でボートに乗った女の子(あゆみ)が
     「HELP」の板をかざして助けを求めている。
     上空から「JUST MOMENT」の板を持った宇宙服の男
     が降りてくる。
     雨、風−−−。
     と、画面の中に大きく男の顔。
男   「落ちる!!落ちる!!」
     クレーンの上から落ちる男(カメラ助手)。
     その拍子にあゆみも宇宙服も河に投げ出される。
合田の声 「やめろ やめろ!!」
     そこはCM撮影のスタジオである。
カメラ助手 「すみません」
合田 「何やってんだバカッ、ひょうきん族じゃねぇぞッ。(カリカ
     リして)プロデューサー、プロデューサー」
     プロデューサーの中山、慌てて
中山 「プロデューサーの中山です」
合田 「誰も名前なんて聞いてねぇ。何だこの撮影はッ」
中山 「カントク、おちついてッ」
合田 「(怒り心頭で)これじゃ十年たっても撮りきれねえよ」
中山 「もう一度お願いしますッ」
合田 「コッポラの撮影クルー連れてこい、そしたら撮ってやる
     から」
     出てゆこうとする。
中山 「そんな事言ったって、来週には納品なんですからお願
     いしますよ(必死で)」
合田 「(バスタオルのあゆみに)そこの!ノータリンレディ!」
あゆみ 「はい!?」
合田 「お母さんと買い物でも行きなさい」
あゆみ 「……母は死にましたけど」
合田 「じゃ、おばあちゃんと行け−−−帰れ!!」
     あゆみ、ワッと泣き出す。
     裕司に気づいた。
合田 「イエーッ」
     裕司、手を挙げて挨拶する。
合田 「(歩み寄って)まぶしいぜ、スーパースター」
裕司 「何のコマーシャル?」
合田 「いや、サインペン」
裕司 「(こけて)……どこが」



[9]アスレチック・ジム
     器具で体を鍛える合田。
     傍で見ている裕司。
裕司 「テラカップ!?あのグァムでやるやつ、マジ?」
合田 「大マジ。あたりまえじゃねえか」
裕司 「だってあれ、朝の内に島を出て、夕方戻ってくるんでしょ」
合田 「ああ」
裕司 「プロでもめったに完走者はいないって話だったじゃない」
合田 「だから毎日湘南行って鍛えてるよ。あと二週間だからな」
裕司 「なんで急にウィンドサーフィンなんかやるわけ?」
合田 「うるさいね、一寸、邪魔だよ」
裕司 「挑戦とか冒険とか、そういうんじゃないの」
合田 「馬鹿。あの島行った時、そういう大会があるっつうから、
     じゃ出ようって、それだけだよ」



[10]同・スカッシュルーム
     スカッシュに興じる裕司と合田。
合田 「お前ね、やる意味だとか訳だとか、そんなのどうでもい
     いの。面白いなッて思ったらやりゃいいんだよ。体、動
     かして、汗出して、それで何にもなけりゃ、そりゃそれで
     いいじゃないか。だけど、ビールはしっかりうまいぜ」 



[11]同・プールサイドのカフェテラス
     ビールを飲み干す合田。
     立ったままの裕司、ジンジャーエール。
裕司 「映画撮る話、どうなってるんですか」
合田 「ニューヨークのか。契約一歩手前だ」
裕司 「じゃ、すぐニューヨーク?」
合田 「どうだかな。まとまりゃコッポラのスタッフつかうことにな
     ってる」
裕司 「すげェ、コッポラ!日本じゃ撮る気ないんですか」
合田 「理解できなきゃ、認めようとしない奴が多すぎるよ。こ
     の国にゃ。それもジジィだけかと思ったら最近は若い奴
     までそうじゃないか、そんな奴等に認められるもん作っ
     たって、しょうがないもんな。もう皆、平均点しか狙わな
     いもんな」
裕司 「……(何となく頷く)」
合田 「そのレールを外れるのがこわいんだ。だけどな、そこか
     ら外れてみなきゃいい景色は見えないよ、ハッキリいって」
裕司 「……俺も一度レールを外れてみようと思ってるんです」