■ 1986.1 K2
「ただ幸せになりたいだけ」
君は僕にいった。ただひとことそれだけを。
もっとあるはずじゃないのか?たとえば、
「左ききの男の子が好き」
とか…
「海の見える丘に住みたい」
とか、もっとやわらかい、元気のいい、ティ
ーンエイジャーらしい夢があるはずじゃない
かい?
それなのに君は、あまりにも重く現実を知っ
ている。君の瞳は微笑みを知らなかった。

君はいつもたったひとりで決意する。
君はいつも気持ちを止めて何かを置き去りにし
てしまう。
君は君のすべてを犠牲にすることさえ、少し
も恐がらない。
「ただ幸せになりたいだけ」……。
君は自分の血を嫌っている。
君は自分の心を嫌っている。
君は自分の感情を嫌っている。汚そうとする。
そんなに素直で美しいのに……。
君は人を信じようとする。
だけど君は君を信じたことがない。それほど
までに君を強くしてしまった世界を僕はうら
まずにいられない。
僕にははいりこめない。君の閉じた心にはい
りこみたい。君を抱きしめたい。
どうして……こんなことがあっていいの?
僕が何も知らないだけなんだろうか。この世
界には君みたいな人が他にもいるとでもいう
のかい?
わからない……。
「ただ幸せになりたいだけ」……なんて。
神様がいるとしたら、おまえは挫折を知らな
いからだとでも答えるのかい!!