■ 1986.12 K2
真夜中の静まり返ったコンクリートCity。
生きている香りにも匂いにも、何も触れさせ
ようとしない。
四方を囲まれた灰色の壁が、僕を急に息苦し
くさせたり、恐怖感をうえつけたり、激しく
がなりたてたりする。……寂しい……不安だ
……バカバカしい……。
そんな時は、いつも空の大きな所に行ってみ
たくなる。海でも山でも丘でも何でもいい。
とにかく、空の大きな所……昔、見たような。
つい、この間。
また、そんな気分になって、川崎あたりの多
摩川を見に行った。昼間、汚くてどうしよう
もないこの水も、暗闇がすべてオブラートに
包んでくれているせいで、とってもきれいな
ものに見えてくる。
ブラブラ歩いていると、一匹の白鳥が鳴いて
いた。たった一匹で、たった一人で、どう見
渡しても仲間がいる気配は感じられなかった。
悲しそうに鳴いていた。
彼の言葉なんて、わかるわけがないけれど、
泣いていることは疑いなかった。
本当に寂しそうだった……。

いきなりコンクリートカッティングされた深
い水……。

僕は彼に声をかけた。
とにかく、話がしたくて、ブツブツと彼に向
かってしゃべり始めた。
そうすると、なんと彼がこっちに向かって来
た。彼も、何か必死に僕に訴えているように
感じた。僕は思わず声を大にして、しゃべり
はじめていた。

伝わるはずない、このバカバカしく見える光景。
暗闇の水の上を泳いでいるたった一人の白鳥。
僕を見ているようだった……。
友達を見ているようだった……。
愛する人たちを見ているようだった……。

ずいぶんとしゃべっていたような気がした。
彼はそこに残ると言っていたはずで……向こう
岸に消えていった。僕も家に戻ることにした。
何かちょっと彼のことが気になりながら
……。


でも、きっと彼は死なないと思った。また、
今度、彼に会いに行ってみよう。