TAKE IT EASY Story
scenario #8

ライブハウス・中
     ガラスでライブステージとスナックコーナーが仕切られている。

     ガラス越し(サイレント)
     カルテットの生演奏。
     熱狂的なポーズでピアノを弾くサングラスの美しい女−−氷室麻弓。

     ある時はたたきつけるように激しく、ある時はなでるように繊細に、
     ピアノに触れる指。

     客席は全員総立ちで手拍子をとるもの、足を踏みならしリズムを
     とるもの、スイングするもの。


     スナックコーナー、客は裕司と仲根2人だけ。
     裕司、立ったままポカンとして見とれている。
     仲根、席について、ウエイトレスに、
仲根  「ビール2本、それにジャガイモ・バター、トウモロコシ、
      シーフードの盛合せ」

裕司  「(振り返り)そんなに食えないよ」
仲根  「俺が食うよ」
裕司  「なにが減量中だ」
     裕司、仕切りのドアの方へ進み、ドアを開いてみる。
     ドラム、サックス、ベース、ピアノがまるでけんかをしたような強烈な
     音が一瞬スナックルームに流れ込む。

     耳をふさぐ仲根。
     裕司、おどろく。あわててドアを閉める。
仲根  「何がいいんだろう?うるさいだけじゃない。な」
     ビールがくる。
     裕司、やっぱり、ガラスの向こうが気になる。
     裕司、ビールを一口ガブリと飲むと、立ち上がり、ドアを開ける。
     再び、強烈な音の洪水。
仲根  「(裕司の行動に)???」
     ドアを閉める裕司−−どこか魅きつけられる。
     トウモロコシが1本くる。
     仲根が手を出そうとすると、何か考え事をしているような裕司の手が
     フラリとのびてとってしまう。

     裕司、トウモロコシをかじりながら、また、ガラスの向こうが気になる。
     また、裕司、立ち上がり、ドアを開ける。

仲根  「(呆れて、ため息)」
     今度は、ちょっとメロディアスな曲が、聞こえてきた。
     少しメロディーを口ずさんでみてまたドアを閉める裕司。
     ジャガイモが運ばれてくる。
     仲根、今度は手を出さないで、裕司のどこか遠くを見つめるような
     表情を見ている。

     裕司、ジャガイモに手を出すと思いきや、するりと立ち上がりドアに
     向かう。

     ずっこける仲根。
     裕司、今度こそはドアを開けて中へ入っていく。

     ライブステージ。
     強烈な、生の音の洪水。
     ピアノをたたきつけるように弾く麻弓。
     したたる汗−−そのスタミナだけでもすごい。
     時々、客席に魅力的な表情を向ける麻弓。
     そのつど客席は、口笛とか、「いえ〜っ」とかの叫ぶ声。
     麻弓、ふと客席に顔を向けた時、ひとりの男に気づく。
     −−あの民川裕司だ。
     麻弓、サングラスをはずす。
     麻弓、あざ笑うように、ピアノソロのアドリブで『モニカ』を弾く。
     あ然とする客席。
     麻弓、目で裕司の方を指す。
     客たち、麻弓の視線の先に、民川裕司を見つける。
     客の中からひとりの女の子が裕司の前に進み出て、帽子を上げる。
     つみきそっくりな顔−−かえで
裕司  「つみき!」
かえで 「何言ってんの、調子狂うなあ、出てってよ」
     客席、「出てけ」「帰れ」とつめ寄る。
     一同の威嚇するような眼差し、眼差し
     −−ローカルの団結はこわい!!

     仲根出て来て、裕司をかばう。
     裕司、後ずさりしながら、ドアの方へとりあえず撤退
     −−ドアを開けて出ていく。


     突然、ピアノソロから再び、ドラム、サックス、ベースがたたきつけるよう
     にのり、巨大な音の洪水となる。

     それとともに客たち、一勢にステージの方をふり返り、裕司のいたことなど
     忘れたかのように、
再び熱狂しだす。


ライブハウス前(中通路
     裕司、仲根、中から出て来て歩く。
     裕司、指と足でリズムをとって、麻弓サウンドの余韻を楽しんでいる。
仲根  「お前、有名な歌手だってな」
裕司  「(うわの空で微笑しながら)誰に聞いたの?」
仲根  「ウエイトレスの女の子。サインもらってやろうかっていったら、
      あんなのメじゃないってよ」

     裕司、笑う。
仲根  「ああいうの、ローカルの突張りって言うんだろうな」
裕司  「日本はどこ行ってもそうなんじゃない」
仲根  「お前、ファンなんかいっぱいいるんだろ」
裕司  「そっちだって、いたんだろ?」
仲根  「俺は男ばっかよ。お前なんかカンペキ女だろ。
      よりどり見どりでやりたい放題できるんだろ。いいなぁ〜。」
裕司  「(立ち止まって、マジに)怒るよ!俺」
仲根  「(立ち止まって、マジに)怒るなよ。お前、女に強いんだろ」
裕司  「それがどうしたの」
     裕司、去りかける。
     仲根、追いかける。
仲根  「たのみたいことがあるんだよ?」
仲根  「恋の手ほどき、教えてくれよ」
裕司  「(ア然)」