TAKE IT EASY Story
scenario #11
青井インターナショナルビル前−−夜 | ||
ゆうせんAOI・中 巨大な古いマホガニーの執務室。 応接セット。 そのソファーに座っている裕司。 青井が入ってきて立ったまま喋る。 青井 「どうですか?この街は?」 裕司 「は?」 青井、執務机につく。 青井 「私はこの街が大好きなんですよ」 裕司 「面白い奴には会いました、もう何人も」 青井 「(笑って)あなたにいろいろ失礼したようですね」 裕司 「別に」 青井 「許してやって下さい。彼らは私の弟みたいなもんなんです。 私のやってる会社−−倉庫やバイクショップ、ジム、 レストランなんかで働いているんです。 この街を出ないで、ここにいてくれる。 私は、彼らが本当に可愛いんです」 裕司 「氷室麻弓もですか?」 青井 「マユミに会われたそうですね」 裕司 「彼女は歌もうまいし、ジャズピアニストとしても一流です。 あれぐらい才能あるアーティストはそうざらにいるもんじゃない」 青井 「(満足そうに、ソファーまでやってきて座り) 麻弓は私が手塩にかけて育てたサラブレッドです。 東京から、随分スカウトにも来ました。 テレビ、レコード、ライブハウス……全て断りました」 裕司 「どうしてですか」 裕司 「マキュウの歌やピアノはもっと大勢の人に聞いてもらえば 素晴らしいと思うし、 バイクの好きな奴は日本一いや、 世界一のレーサーをめざせばいい」 青井 「(笑って聞いている)」 裕司 「おかしいですか?僕のいってること」 青井 「別に……ただ」 裕司 「ただ何ですか」 青井 「仲根が3年前、同じことを言ってたなと思い出しまして…… そういって、あいつは、私がひきとめるのもきかず、スカウトされて、 東京のジムへ行った。 ……それで、どうなったか知ってますか?」 裕司 「12戦目で負けましたね、だけど11連勝したんでしょ」 青井 「(うなずいて)ジムがかませ犬といわれるボクサーを相手に選んで くるんだから、 それぐらい勝ちますよ。 その時は"北海のロッキー"なんて呼ばれたりしたもんです。 ジムも結構商売になったところで、世界ランカーに挑戦させた。 勝てばもうけもの。 負けてもすでに十分かせいでいたはずだ。 そして仲根はあっさりKO負け。お払い箱ですよ」 裕司 「でも」 青井 「(遮って)それが奴らのやり方だ。 仲根がこっちに戻ってきたんで、わたしのいうことが身にしみたと 思ったんだがね ……もう一度世界をめざすんだとか言いだして−−」 裕司 「僕がボクサーだったら、仲根と同じようにしたと思いますけど」 青井 「(ウス笑いを浮かべてうなずく) だろうな、キミはどうやら同類らしい。(急に鋭い口調になり) つまり、わたしの一番嫌いな種類の人間だ」 ドアを開けて、健次と和人が入ってくる。 青井 「今夜は部屋がとってあります。明日は一番で東京へ」 裕司、あえて抵抗せず、2人にはさまれる型で出口の扉へ。 青井 「(説得するように語りかける) 民川くん、若い者は何かといや世界が自分を待っていると言って いるが、 そんなものは誰も待っちゃいない。 夢と幻想とは違うんだ。与えられた世界でベストを尽くせ。 それが私の信念だ」 | ||
夜の市街道路 健次の運転するジープの助手席に裕司、後ろに和人。 併走して圭吾らが運転する裕司のサイドカー。 裕司 「お前ら青井のためにけんかやってんだ」 健次 「それだけじゃない」 裕司 「?」 健次 「わかんないのか?面白いからやってるだけだよ」 裕司 「俺、面白くないね。そういうの」 走っていくジープとサイドカー。 | ||
ホテル・客室(朝) ベッドにねころんでいる裕司。 ジッと思案している。 青井の声が被る。 青井の声「若い奴は何かといや世界が自分を待っていると 言っているが……」 | ||
回想−−仲根 牧舎横のボクシングコーナーでサンドバッグをたたく、仲根。 青井の声「……そんなものは誰も待っちゃいない」 | ||
回想−−麻弓 ガラス越しのライブハウス。 若者たちの熱狂の中で、ピアノをたたくように弾く麻弓。 青井の声「……夢と幻想は違うんだ」 | ||
ホテル・客室 身づくろいして出てゆく裕司。 ある決意−−。 |