TAKE IT EASY Story
scenario #15

住居外のテラス(夕方)
麻弓  「……七変化。その四。もうこれでおしまい」
裕司  「惜しいな」
裕司  「その五、その六、その七も見たいな」
麻弓  「……(首を振る)」
裕司  「ここを出る気ないの?君のピアノや歌をもっと大勢の人に聞いて
      もらおうと思わない?」

麻弓  「……」
裕司  「家族を見捨てるのが恐いんだ」
麻弓  「関係ないわよ。私がいなくなれば役所で面倒見てくれるもん」
     2人、イスにすわる。
裕司  「だったら、どうして……」
麻弓  「……」
裕司  「もっと夢、大きく持ってほしいな。君のお父さんのように……」
     麻弓−−突張っていた糸がフッと切れる。
麻弓  「(初めてトゲトゲしさが消えた)夢ならあるもん」
     裕司、フッと麻弓の方を見る−−少女の顔だ。
裕司  「(微笑)教えてくれないんだろう」
麻弓  「(はにかむ)笑うから……」
裕司  「(マジに)笑わないよ」
麻弓  「きっと笑うわ」
裕司  「笑わない」
麻弓  「ほんと?」
     裕司、うなずく。
麻弓  「(遠くを見るように)カーネギーホールでコンサートをやりたいんだ」
裕司  「(!?と)……カーネギーホールって、あのニューヨークの?」
麻弓  「(子供っぽくうなずいて)そう、ビリー・ホリデーが歌ったところ。
      (裕司を見る)」

     裕司、じっと麻弓を見たまま。
     見つめ合う2人。
     裕司、今まで思い悩んでいたことがフッと切れたように笑いが
      こみあげてくる
−−少年の笑顔。
麻弓  「あっ!!笑わないっていったのに」
     麻弓、怒ったようにうつ向いて泣き出したようだ。
     裕司、あわてて腰を上げ、麻弓の正面にまわり、顔をのぞきこむ。
裕司  「ごめん……おかしくて笑ったんじゃ……」
     麻弓、笑いながら顔を上げる。
     裕司、きょとんとするが、すぐに一緒になって笑い出す。

     住居の小さな窓から2人を見ていた子供たち、
     「やったァ」てな感じでうれしそうに顔を見合わす。
     その後で一緒になって2人のラブシーンをのぞいた画伯戸惑う。

麻弓  「信じられない、こんなこと話しちゃって」
裕司  「どうして?」
麻弓  「夢だけで生きて行けると思う程子供じゃないわ」
裕司  「でも子供の夢をずっと持ってる大人って少ないよ」
麻弓  「夢って難しいね」
裕司  「(一言一言探るように)俺、ずっとね、一つの目標決めてそれに向かって
      突走り、
そこまでいったら、また次の目標を決めて
      ……それが夢を追いかけることだと思ってたんだ。

      でも何か俺、夢に追いかけられてたような気がするんだよね。
      ……ジャパンツアーが成功したから、次はニューヨークしかない
      みたいな。
そうじゃなくって……何ていったらいいのかな……」
麻弓  「(包みこむような笑い)カーネギーホール!」
裕司  「そう、それ!そういうのでいいんだよ!」
     部屋の画伯もうなずく。


住居の外の道(夜)
     健次らのバイク、圭吾や和人らの乗ったジープが爆音を立てて
     やってくる。(クラクション)

     麻弓出てくる。
麻弓  「どうしたの、こんな大勢でにぎやかに」
     つづいて出てくる裕司。
裕司  「こっちの迎えもあるんじゃないの」
麻弓  「……どういうこと」
裕司  「この町出て行けって言われたのに居残ってるからさ。
      −−(健次らに)そうだろ」

和人  「判ってるじゃない」
麻弓  「何の話?気に入らないね」
     健次、ジープに目をやり、
健次  「その話はあとで、急ぎなよ」
麻弓  「何の話、気に入らないね」
かえで 「麻弓、早く、今日も2時から待ってる客がいるんだよ」
     麻弓、ハッと(かえでを)見る。
     裕司と見比べる。
     迷うが歩き出し。
     麻弓、ジープに乗り込む。
裕司  「……」
     一瞬、燃えて熱くなる。その眼差し。


バスの終点(夜)
     健次、和人らに取り囲まれた裕司。
健次  「青井さん、怒らせんなよ。30過ぎても見境いつかない時がある」
裕司  「俺をどうしろって言った」
健次  「傷が残らないように痛めつけろって」
     和人が指をベキボキさせて裕司の前にでてくる。
和人  「傷が残らないように痛めつけろっていわれても、ちょっと難しいんだよな」
     健次、和人を制して、
健次  「今ならまだ間に合う。出て行けよ」
裕司  「出る時は、俺が自分で決めるから」
     和人らを押しのけて行く。
     和人が裕司の襟首をつかんで振向かせると、一瞬のうちに裕司の
     腹にパンチをブチ込む。

     つづいて、2発、3発。
     ミドル級クラスのボディブローを食ってうずくまる裕司。
     裕司を引きずり立たせて、さらにパンチ、パンチ。
     裕司もやられるばかりでなく、2、3発のパンチをくりだすが、
     大勢に無勢、
しかも相手はボクサーの卵たち。
     殴られながら次第に裕司の意識、遠のいていく。

     ヘリコプター降りて来る。
     倒れている裕司に接近する。

     次のシーンの麻弓のピアノ演奏が、殴り合いにずり上がって−−