TAKE IT EASY・EXTRA Story

scenario2 #8
第四稿(月刊シナリオ・シナリオ作家協会版)

ライブハウス

     カウンターに、仲根と裕司。
     ビールを呑み、ジャガイモやトウモロコシを頬張る。
仲根  「何もない町なんだ、ここは。
      警官なんか平気で店やって、何が起きても知らん顔してる」
裕司  「だから時々からかってみるわけか」
仲根  「からかったり、からかわれたりな」
裕司  「来るんじゃなかったな」
仲根  「まァ、そういうこと」
     仲根、通りかかったボーイに何かきくが、ボーイは首をふる。
仲根  「おかしいなァ、あいつらトグロ巻いて待ってるはずなのに、どこに消えたんだ」
     裕司、背後のガラスで仕切られたステージと客席を見る。
     女性シンガーが熱唱している。
     裕司、ガラスのドアを開ける。
     場内のすざまじい音声がとびこんでくる。
     歌う女性シンガー。
     飾りの一切ないコスチューム、唱法。
     よく歌いこんで気持ちよく、かすれた声が、テンポよくシャウトする。
     それは次第に熱を帯び、激しい動きとなり、
     天を地を人を鋭く突き刺すように迫ってくる。
     裕司、ドアを閉めてカウンターへ戻る。
     ビール、呑む。
裕司  「あの娘、何なの」
     仲根、近くのボードをこなす。
      お待たせ!充電完了!
      氷室麻弓、出演
仲根  「この町のスター」
裕司  「(口笛)ひむろまゆみ、……マキュウね。スピルバーグの妹か」
仲根  「ゴネること覚えて、最近じゃなかなかお出ましにならねェのよ」
     ガラス越しに麻弓の姿を見る裕司。
裕司  「音がついてなきゃ、なかなかだけどね」
     それでも気になって、もう一度ガラスのドアを開ける。
     盛り上がる場内。のりまくる麻弓。
     あらゆるものへの反抗と、出口のない者の魂を開放させる
     激しく鮮烈なシティ・ロック。
     すべての客が一丸となって、手を突き上げ、ある者は咆哮し、
     ある者は哭いている。
     その中に、つみきとそっくりの少女、少年にも見える日野かえでが、
     まるで女神でも仰ぐかのように見ている。
     裕司は麻弓を冷静に見ている。
裕司  「……(素直に魅せられた)」
     汗を飛び散らせ、あらゆる怒りを叩きつけるかのように、
     全身凶器のようにロックする麻弓。
     見つめつづける裕司。
     完奏。
     歓声と拍手。
麻弓  「(マイク)ありがとう。久しぶりだね」
     口笛と歓声。ガキっぽい「麻弓」コール。
麻弓  「(マイク)もういいよ、そういうの。いつまでたっても、
      お前らガキだね」
     ワッと湧く客。自虐的。
     麻弓、フッと客席の"民川裕司"に気づいた。
麻弓  「……」
裕司  「……」
     麻弓、すぐに目をそらし、観客に何か言おうとする。
     が、声が出ない。
     客たちも裕司に気づく。全員が白い眼。
麻弓  「……(ようやく)みんな、民川裕司って知ってる?」
     途端に、「ダセェ!」「イモ!」「クセェ!」「あやつり人形!」
     「相手にすんな!」の声、声。
     苦笑する裕司。
     隣に、仲根がくる。
麻弓  「(マイク)興奮すんなよ。おしのびのタレントさんにゃあったかく
      してやろうぜ。先は長くないんだし」
     ワーッと歓声。拍手。
     裕司も余裕たっぷりに拍手した。
     かえでが、ジッと裕司を見ている。
     二曲目のイントロ。
     再び盛り上がる。
     仲根、裕司を促す。


外の路上

     指と足でリズムをとる裕司。
     麻弓の歌の余韻が残っている。
仲根  「メジャーの人間目にすんの初めてだからさ。
      よってたかってお前に突張ってんのよ。なんせ鎖国だからな、
      この町は」
裕司  「サコク?!」
仲根  「江戸時代の」
裕司  「(笑って)珍しいね」
仲根  「日本史の仲根です」
裕司  「どこのローカル行っても似たようなもんだろ」
仲根  「まァな」
裕司  「だけど、あの娘良かったぜ。めっけもん」
仲根  「へェ、あ、そう。通用する?」
裕司  「かどうかはわかんないけど、なんか面白いじゃない」
仲根  「そりゃ何?女として?歌手として?」
裕司  「どっちも」
仲根  「(口笛)」
     二人、両手を叩き合う。軽くステップ踏んで歩く。
     仲根、フッと思い浮かぶ。
仲根  「お前さ、女に強い?」
裕司  「あ?」
仲根  「強いだろ。強そうだもんな、お前」
裕司  「それがどうした」