TAKE IT EASY・EXTRA Story

scenario2 #10
第四稿(月刊シナリオ・シナリオ作家協会版)

ホテル・最上階のラウンジ

     隅の目立たない席。裕司と仲根、ウィスキー。
仲根  「明けても暮れてもボクシングだろ。気がついたら、
      女も口説けねェ、カタワになってたんだ」
裕司  「OK、手本見せてやる」
仲根  「待ってました!」
裕司  「あの娘、本当に出るんだろうな、ここ」
仲根  「出るよ、こっちも町の名物」
裕司  「だけどロックやるって雰囲気じゃないぜ」
     その時、B・G・Mを流していたピアノの傍に、ピンスポットが当たる。
     女がピアノ伴奏で歌い始める。ミッドナイトショー。
     女は氷室麻弓。シンプルな黒いドレスで、まるで成熟しきった
     女のようなフィーリングで歌う。
裕司  「(目を丸くして呟く)ホワット・ハプン?」
仲根  「(囁く)期待してますぜ、コーチ」
     麻弓、紳士淑女の客席をゆっくり回りながら、語りかけるように
     バラードを歌う。
     ライブハウスの時とは違って、深い安らぎに誘いこむような歌唱だ。
裕司  「(呟く)イッツ・マジック」
     麻弓、裕司の席の近くにくる。裕司に気づいた。
     裕司、微笑して、麻弓の歌ってる曲を軽く口ずさむ。
     麻弓が近づく。裕司を見つめる。
     裕司、サングラスをとって麻弓を見つめる。
     見つめあう、麻弓と裕司。
     見守る、仲根。
     裕司のサングラスを麻弓がとって、自らかける。
裕司  「……(不敵な微笑)」
     麻弓、歌いながら去ってゆく。
        × × ×
     クローズしたラウンジに、裕司と仲根だけ残っている。
     ウィスキーをなめる。
仲根  「マキュウ、本当に来るかな」
裕司  「俺の目見たろ。あいつの目も見たろ」
仲根  「うん、あいつの目、うるんでるみたいだったけど、ライトのせいかな」
裕司  「馬鹿、本当にうるんでたの。ああいう風にやるんだぜ」
仲根  「へェ……!」
裕司  「あいつ、俺にゾッコン」
仲根  「そうだとしたら、どうなるの」
裕司  「ここ、ホテルだろ?」
仲根  「おいおい、あいつはヤバイよ」
裕司  「ヤバイってどういう?」
     そこへボーイが来る。
ボーイ 「お待たせしました」
     ボーイの背後を見回す裕司と仲根。
ボーイ 「申しわけございませんが、氷室麻弓はご招待を受けられないそうです。
      これをお渡しするようにと」
     裕司のサングラスを渡して、去る。
     そのサングラスのミラー面に、口紅でメッセージが書いてある。
       A HO
裕司  「……」
仲根  「コーチ。何事も」
裕司  「アクシデントはつきもの」
仲根  「そうそう」
裕司  「俺も音楽ひとすじだったからなァ」
     二人、出口へ向かう。
     後片づけをしているボーイやバーテンたちが挨拶する。
     裕司、不意に笑いがこみあげる。
     同時に、仲根も。
     二人、腹をよじってカン高く笑う。
     ボーイたちが何事かと見る。


同・外のエレベーターホール

     笑いながら、裕司と仲根が来る。
裕司  「よォ」
仲根  「あ?」
裕司  「あの娘さ、メジャーでもやってゆけんじゃないかな」
仲根  「あ、そう」
裕司  「なんかさ、歌がうまいヘタじゃなくて、大きくなれそうなもん
      あるじゃない」
     仲根が、窓ガラスから下の路上を見る。
仲根  「−−?!」
     −−ホテル通用門の前の路上に、数台のオートバイやジープ。
     そして裕司のサイドカー。
     十数人の男たちが群がっている。


同・ホテル階段

     駆け下りる裕司と仲根。