TAKE IT EASY・EXTRA Story

scenario2 #12
第四稿(月刊シナリオ・シナリオ作家協会版)

BAR「K・CAN」

     健次や和人、圭吾らがたむろしている。
     池谷が、十人分の焼きそばを一度に作っている。
池谷  「待ってろ。今すごいのくわしてやるから」


同・二階

     無線器。
     古いマホガニーの執務机に十台余りの電話機。
     壁に、銃器のコレクション。
     他は応接セットだけの、簡素な部屋。
     コーヒーメーカーから二つのカップにコーヒーを注ぐ男、青井森一。
     三十を過ぎたばかり、風采の上がらない男だが、
     時として威圧するように眼光が鋭く光る。
     裕司が所在無げに坐っている。
青井  「佐藤とかミルクは?」
裕司  「……いえ」
     青井、カップを裕司の前に置く。
裕司  「どうも。いただきます」
     青井、立ったままコーヒーを呑み、歩く。
裕司  「……」
     間。
     青井、突然裕司を正面から見て、
青井  「どうスか」
裕司  「−−は?」
青井  「この町」
裕司  「−−ええ、何て言うか」
青井  「ヤクザが一人もいないいでしょ」
裕司  「は?……(笑いをこらえて)まァ」
青井  「ぼく、ヤクザ嫌いなんですよ。もう五、六年になりますかね。
      この町をヤクザのいない町にしようと思いましてね、
      ……結果はこの通りです」
裕司  「……」
青井  「そのためにはね、土地の若い者をうまく遊ばせるんです。
      喧嘩したいやつにはボクシングをやらせる。
      単車で騒ぎたいやつはチューンナップ工場をまかせて好きにやらせる。
      ただ何となくクサクサしてるやつには、ライブハウスやディスコで
      発散させる。
      そのためには身近なスターがいる。で、氷室麻弓を育てた」
裕司  「……彼女なんかメジャーにいってもやれるんじゃないですか」
青井  「……(一瞬険しい目)」
裕司  「それからバイクやってる彼も」
青井  「そういうのは一切認めない」
裕司  「え?」
青井  「中央に出てスターになっても、ぼくには何の得にもならない」
裕司  「だってそれは一人一人の自由でしょう。
      一つ上の夢ができたら、そのために努力する。
      それを誰もつぶすことはできないよ」
青井  「ぼくはね、仲根六郎って男が嫌いなんですよ」
裕司  「いいやつじゃないですか。
      やつは誰にも頼らずに一人で夢を追いかけてる」
青井  「それが馬鹿なんですよ。三年前やつはぼくがとめるのもきかず、
      ジムを飛び出して東京に出た。
      次々にアテ馬をかまされて十一連勝させてもらった。
      が、世界ランカーとやったら一ラウンドももたない。
      それでこっちに帰ってきたから、一緒に遊べと言った。
      やつは断って、一人で牧場にこもって再起をかけている」
裕司  「そのどこが悪いんですか」
青井  「十二戦目でやつが負けた時、やっぱりヘタな夢は追いかけないで
      この町にいた方がいいって、みんな思ったんです。
      それが仲根がああなると真似するやつが出てくるんですよ。
      せっかく、まとまってるのに、他の町のヤクザがきても
      追い返せる団結とパワーがあるのに、
      ……おかしな波風が立つと崩れてしまうんですよ、ぼくの夢は」
裕司  「……(余りの阿保らしさに笑ってしまう)」
青井  「仲根の利き腕をつぶした者には賞金をやることになってる」
裕司  「−−!」
青井  「上手に遊ばせているわけですよ。
      若い者はローカルでいいんです、メジャーなんて絵に描いた モチです。」
裕司  「……(敵意の目で青井を見る)」
青井  「そこでだ。民川さん、あなた早くこの町を出てもらえませんかね」
裕司  「こっちの勝手だ」
青井  「困ってるんですよ。ここらの連中には口をすっぱくして言ってるんです。
      例えメジャーになれても一切の自由がはく奪され、
      ただのお飾り人形になってしまうと」
裕司  「……だから、例え夢をもっていてもそんなことは忘れてこの町にいた方が
      人間らしく生きられるってわけ?」
青井  「ええ。それがねェ、あなたに自由に自分の意志で歩き回られると、
      −−特に麻弓なんか、麻弓に接触されたそうですね−−
      いい影響は与えない。東京からスカウトが何人もきてるけど、
      ぼくが追い返してるんです」
裕司  「……(立つ)帰ります」
青井  「そうして下さい。今夜はホテルがとってあります。明日は一番で東京へ」
裕司  「待ってよ。俺はあんたに牛耳られてるわけじゃないぜ。
      どうするか決めるのは俺だ」
青井  「この町にいる限りは無理でしょうね。
      これ以上ウロウロすると、あなたの大事な喉笛、(ナイフで切るフリ)
      これですよ」
裕司  「頭おかしいんじゃないの」
青井  「確かに。世の中はいつだってひと握りの頭のおかしい人間で
      操られているんですよ。
      抵抗しちゃダメです。−−わかったね」
     ゾッとする眼差。
裕司  「……」
     壁の銃器のコレクション。


同・一階

     裕司が階段を下りてくる。
     健次、和人、圭吾らが待っている。
健次  「送ってくよ」
裕司  「ケッコー」
     歩き出す。
     ドッと裕司を囲み、威圧する。
健次  「警察呼んだって来やしないぜ」
     カウンターの奥で、池谷がとぼけた顔を出す。
池谷  「おい、みんなで焼きそば喰ってけ。若い者は喰わなきゃダメだ!」
裕司  「……仲根は?無事か?」
健次  「ああ。お前は東京に戻ったと言ってある。」
裕司  「青井にきいたよ。お前ら、馬鹿だな。
      せっかくいいものもってるのに、もっと夢を抱いていいのに、
      あんな気狂い一人につぶされて……」
健次  「……」
和人  「青井さんの悪口言うなよ。絞め殺すぞ」
圭吾  「早くホテル行っておネンネしろよ」
     睨み返す裕司。