TAKE IT EASY・EXTRA Story

scenario2 #15
第四稿(月刊シナリオ・シナリオ作家協会版)

市場

    麻弓、次々に食品類を選んで回る。
    ついて回る裕司。
裕司  「ね、何か言ってよ、何でもいいよ」
麻弓  「(ウンザリ)……去ってよ」
裕司  「OK・OK、その調子。バンバン言ってよ、バンバン」
麻弓  「……ね、……何が目的なの」
裕司  「会話(カンバセーション)。話をしたい。ぼくのことを語りたい。
      君のことをもっと知りたい」
麻弓  「興味ないわよ」
裕司  「ウソでしょ」
麻弓  「(あまりのしつこさにプッと吹く)……私、あんまりさ、
      芸能人と話したことないのよ。(再びプッと吹く)」
裕司  「(一緒に笑って)コケにするにしてもさ、もっと他にあるじゃない。
      そういうんじゃ効かないよ。(麻弓の手にしたブロッコリーを取って)
      これ、色よくないよ。こっち」
     と、他のブロッコリーをカートに投げ入れる。
     人なつっこい裕司。
     戸惑う麻弓。
麻弓  「……ね」
裕司  「……ん?」
麻弓  「民川裕司って好き?」
裕司  「そう、それ、そういうの。答え、大好き」
麻弓  「面白くない」
裕司  「自分てもんが一番面白いんだぜ。君はそうは思わない?」
麻弓  「ホントなんだね、自信過剰のカッタマリ」
裕司  「そっちだって相当なもんでしょ。自分に自信のないやつの
      どこが面白いのよ」
麻弓  「……」


外の通り

    買い物の袋を持った麻弓。
    相変わらず陽気について回る裕司。
裕司  「ね、今の自分に満足してる?」
麻弓  「−−(ハッと)」
裕司  「そうじゃないだろ。ライブじゃそういう歌い方じゃなかったもん。
      だから俺、ビッときたんだ。比べて、クラブのショーはまずかったな。
      諦めて歌ってたよな、投げやりで。大人は勘違いしてほめるだろ、
      あ、セクシーとかやさしく包まれそうとか。俺はちゃんと見てるぜ」
麻弓  「……(ズバッとつかれて、あせる)」
裕司  「いつまでも青井のオモチャでいいの?」
麻弓  「青井に会ったの」
裕司  「ああ。町を出て行けって言われたよ」
麻弓  「なぜ出て行かないの」
裕司  「……どうしてかな」
麻弓  「さっさと出て行きゃいいじゃない」
裕司  「平気で他人の夢つぶすやつがいると、俺、許せないんだ」
     麻弓、立停まって裕司を見る。
麻弓  「……どうする気?」
裕司  「うん。……とりあえず」
麻弓  「とりあえず?」
裕司  「君とキスしたい」
麻弓  「(驚くが)……分裂病」
裕司  「(ウィンクして)とりあえず、今のぼくの夢(笑う)」
     麻弓、何も言う気がしなくなって、立ち往生。
裕司  「ね、ちょっと、つきあわない?」
麻弓  「ア、お財布忘れた」
裕司  「どこ?」
麻弓  「さっきの」
裕司  「OK、とってくる」
     裕司、市場に走ってゆく。
     麻弓、停留所に来た市電に乗り込む。
     市場から、騙された裕司が戻ってくる。
     市電発車。
     ニタッと笑って、走り出す裕司。


走る市電・車内

     立っている麻弓。
     フッと気づくと、−−裕司が追いかけてくるのが見える。
麻弓  「……なんちゅう」