TAKE IT EASY・EXTRA Story

scenario2 #17
第四稿(月刊シナリオ・シナリオ作家協会版)

山路を曲がった所で、突然

     広い草地が広がる。
     そこに、UFOを模した不思議な建造物と、こぢんまりとした住居がある。
     遊んでいた五人の子供たちが、麻弓を見るとワッと駈け寄ってくる。
     「お帰り、お姉ちゃん」
     麻弓、子供たちと住居に入ってゆく。
     ポカンとして、見ている裕司。
     その時、UFO型建造物から、大男がもっそり出てくる。氷室画伯。
画伯  「(裕司を見て)……?」
裕司  「どうも。民川です」
画伯  「……どうも。画伯です」
裕司  「は?」
画伯  「ア、あの、氷室画伯です」
裕司  「ア、絵の方の」
画伯  「いえ、ただの画伯です」
裕司  「……(なんとなく)ああ」
画伯  「カミカワさん」
裕司  「タミカワです」
画伯  「ア、民川さんね。どこかで会ったことありましたかね」
裕司  「いえ、……ないと思いますけど」
画伯  「そうですかね。……そうでしょうね。……あなた、どなたですか」
裕司  「……ちょっと通りがかりの者です」
画伯  「ああ。……麻弓の?」
裕司  「ええ、まァ」
画伯  「私、麻弓の父です」
裕司  「そうだと思いました。何となく」
画伯  「何となく?」
裕司  「(UFO建造物をこなして)ビッときましたから」
画伯  「ほう。ビッと?」
裕司  「ええ」
画伯  「話せそうですね、何となく」
裕司  「はァ」


住居

     夕食の支度をしている麻弓。
     子供らが手伝っている。


同・外

     建造物の周囲を歩く裕司と画伯。
画伯  「私ね、マックがここに下りてくるのを待ってるんですよ」
     と、広い空地をこなす。
裕司  「マック、ですか」
画伯  「普通はUFOって呼んでますわね」
裕司  「ああ」
画伯  「北海道でもこの辺りはひんぱんに飛んでるんですよ。
      (建造物をこなして)おとりですわ、これ。
      上空からみるとね、マックと全く同じなんです」
裕司  「はァ。本物がここに着地したら、どうするんですか」
画伯  「できればね、一緒に連れてってほしいんですわ。
      こんな狭い所で一生終えたって面白くないですもんね」
裕司  「……(微笑)」
画伯  「私ね、昔航空自衛隊のパイロットやってましてね。
      毎日F4で(空を)飛んでたんですわ。日本の防空域って狭いでしょ。
      マッハ1とか2で疾ると、すぐUターンして、なんだか檻に入れられた
      鳥みたいでね。
      そんな時、マックに出会ったんです。都合五回ね。
      向こうは気ままで自由でね。羨ましいなんてもんじゃなかった」
裕司  「……(ホンマかいな)」
画伯  「その頃私、地上に下りても、麻弓の母親と、あとで下の子らの母親になる女と、
      二人の女の間を行ったりきたりしてましてね、
      ……何かイヤだなァと思ってたら、二人の女とも蒸発してしまいまして
      ね、もうスッキリして。三年前からこうやって好き勝手やってるんですわ」


住居

     配膳する麻弓。
     子供たちは手を洗っている。


同・外

     画伯、空を見上げて、
画伯  「ああ、今夜は降りそうだな。意外とね、雨の日が多いんですよ。
      マックがくるのは」
裕司  「あの、……素敵な夢だと思いますけど、他人の夢を無視してもまで
      追い求めるのは、何か違うんじゃないですか」
画伯  「他人の夢というのは、麻弓のことですか」
裕司  「ええ。彼女がもし東京に出て歌手になりたい夢を抱いても、
      ……働きのないお父さんや子供さんたちをおいて出て行くことは
      できないでしょう」
画伯  「……そんなことはないな。麻弓がもしそうしたいんなら、
      そうすべきでしょう。
      私がいいたいのは、その逆のことです。
      例え現実がどんなに難しかろうと、夢は追いつづけるべきです。
      カゴの鳥が一番危険です。」
裕司  「……(何か大きなものに包まれたように微笑する)」
画伯  「……(大らかな微笑)」
     子供の一人(ユミ)が住居から出てくる。
ユミ  「お父さん、ごはんよ」
画伯  「(裕司に)さ、行きましょうか」
裕司  「いえ、ぼくは」
画伯  「どうぞ、どうぞ」
     裕司をひっぱってゆく。