TAKE IT EASY・EXTRA Story

scenario2 #19
第四稿(月刊シナリオ・シナリオ作家協会版)

近くの山中

     健次、和人らに取り囲まれた裕司。
健次  「青井さん、ずいぶん熱くなってる」
裕司  「−−俺は麻弓に熱くなってる。最高」
健次  「言ったろ。あの人、怒らせんなよ。
      三十過ぎても見境いつかない時がある」
裕司  「俺をどうしろって言われた?」
和人  「傷が残らねェように痛めつけろってよ」
裕司  「昨日は(喉を指差して)かっ切るって言ったぜ」
和人  「どうしても出て行かないんならな」
健次  「今ならまだ間に合う。出て行けよ」
裕司  「青井じゃなくて、あんたらはどう思ってるんだ」
和人  「俺たちゃ言われた通りにするだけだ」
裕司  「おっとォ。それじゃただの犬っころじゃない。夢も自由もたった一人の
      気狂いに取りこまれて、恥ずかしくないの」
和人  「青井さんは気狂いじゃねェよ。俺にゃボクシングをさせてくれた。
      仕事も世話してくれた。恩人だ」
裕司  「恩人の言うことなら、仲根の利き腕へし折ってもいいのか。
      あれだけの夢を勇気を持った男をつぶしてもいいの」
和人  「仲根とは遊びでやってるんだ」
裕司  「遊びで誤魔化すなよ」
健次  「遊びだ」
裕司  「そうかい。じゃこっちも遊びですよ。放っておいてくれませんかね」
     和人らを押しのけて行く。
     和人が裕司の襟首をつかんで振り向かせると、
     一瞬のうちに裕司の腹にパンチをブチ込む。
     つづいて、二発、三発。
     ミドル級クラスのボディブローを食ってうずくまる裕司。
     そこへ、さらに凄絶なリンチがつづく。
     意識を喪う裕司。


意識を回復する裕司

     見上げれば、夕闇迫る空、空、空。
     激痛に耐えて、膝で立つ。
     そこは、切り立った山の頂上。
     急峻な岩肌が八合目までつづく。
     その下は広大な原生林。
     その彼方は靄がかかって何も見えない。
裕司  「……ひでェ、遊びだな」
     坐り込む。
     途端に、吐く。血を吐いた。
     内蔵が捩れ、破裂したような激痛が襲う。
     死の恐怖−−。
     ポツポツ雨が頬を濡らす。
     黒い雲。
     降りそうだ。
     裕司、怒りがこみ上がる。
     ギリギリのパワーを生む。
     サバイバルへの闘志。
     裕司、決心して急峻な岩壁にしがみつく。下りる。
     危険な岩場を慎重に下りてゆく。
     途端に、手が滑り、足がもつれた。
     ザーッとすさまじい勢いで岩肌を滑り落ちてゆく。
     落ちる、落ちる、落ちる。
     漸く、止まった。
     動かない裕司。
     その背中に、雨がおちてくる。
     闇が迫る。
     ピクッと、裕司が動く。
     ありったけの余力を集めて、多党とする。
     倒れる。
     立つ。
     倒れる。
     立つ。
     よろけながら立ちつづける。
     岩場に足をとられながら、暗黒の原生林へ向かってゆく。