TAKE IT EASY・EXTRA Story

scenario2 #20
第四稿(月刊シナリオ・シナリオ作家協会版)

ライブハウス・ステージ

     ありったけの思いを爆発するように激しくロックする麻弓。
     バックバンドのメンバーや満員の客が圧倒されながらものりまくる。
     異様な熱気だが、どこかチグハグなライブ風景。
     客席には、かえでがいつものように女神を仰ぐようにして見とれている。
     さらに隅では、ひっそりと青井が見ている。
青井  「……(ある危惧)」
     突然、麻弓が歌いやめる。
     呆気にとられるバックバンドや客。
麻弓  「(マイク)何考えてんのよ、あんたら。ただのりゃいいってもんじゃ
      ないよ。ガキの学芸会やってんじゃないんだから。
      (バンドに)キーが一人ずつ違ってんじゃないの。
      ……いいけどさ、どうせアマチュアなんだし」
     場内、シーンとなる。
かえで 「……(息を呑む)」
青井  「……(ため息)」


同・楽屋

     バスタオルを頭からかぶって項垂れている麻弓。
     青井が、やさしく見守る。
青井  「そろそろサヨナラコンサートでもやるか」
麻弓  「(?!となって)……じゃ……私の好きにしていいんですか」
青井  「……」
     青井、小さな箱をとり出す。
     指輪が入っている。
麻弓  「−−!」
青井  「いつか渡そうと思ってた」
麻弓  「……」
青井  「ぼくの傍を離れたらダメだ。例え歌をあきらめても」
     麻弓、フッと嗤って指輪をはめる。
麻弓  「青井さん……感謝してます……オモチャのままでいれば
      苦労せずにすみますから」
     出てゆく麻弓。
青井  「……」
     ひっそりと麻弓のタオルを自分の頭にかぶる。
     その香り。


BAR「K・CAN」(深夜)

     カウンターで強い酒を呑んでいる麻弓。
     客は他に、麻弓を見張っている圭吾。
麻弓  「マスター」
池谷  「……ほい」
麻弓  「まいったよ」
池谷  「……なに?」
麻弓  「ただのカゴの鳥と思ってたのが、……あんなに自由に……
      あんなに生き生き……私、一体何を突っ張ってきたんだろう。
      馬鹿みたい」
池谷  「民川なら、町出て行ったそうだ。(圭吾に)な」
     麻弓、ドキッと、圭吾を見る。
圭吾  「今日出てゆかなきゃ殺すってマジで脅したらよ、
      スタコラ逃げていきやがんの」
麻弓  「なんで追い出したの。なんでそんなことすんのよ!」
池谷  「青井さんが不愉快ってんだからしょうがないよな」
麻弓  「(池谷を睨めつけて)……ポリ公」
池谷  「マスター」
     バシッと池谷にウイスキーをぶっかける麻弓。
池谷  「警察呼ぶぞ」
     麻弓、とまり木からすべりおちて、フロアに坐り込む。
     頭が真空(カラ)になる。
圭吾  「麻弓、帰るぞ。送ってくから」
麻弓  「(手で制して)一人にしといて」
圭吾  「青井さんがうるさいんだよ。しっかり見張りしとけって」
麻弓  「さっさと帰んなよ、ボウヤ」
圭吾  「……(お手上げ)」
     長い沈黙のあと、麻弓、立上がる。
     虚脱。
     圭吾が支えようとするのを振り払う。
麻弓  「マスター、ごめんね」
池谷  「いいんだよ。四千二百円」
     麻弓、五千円札を投げて出てゆく。
池谷  「(ブツブツ)世の中から若い者がいなくなりゃ、事件なんて
      おこらんのに。
      いなけりゃいないで世の中全然面白くないからなァ。
      むつかしいわなァ」


外の路上

     闇に雨が降っている。
圭吾  「ジープもってくるから、待ってろ」
     駈け出してゆく。
     ボンヤリ佇む麻弓。
     スッと歩き出す。
     せめて雨に打たれようと思う。
     歩く麻弓。車道へ。
麻弓  「−−!」
     傘をさした男が立っている。
     信じられない顔で見つめる麻弓。
     男が歩み寄る。車道へ。
麻弓  「……裕司」
     男は青井だった。
麻弓  「……」
青井  「染まるのはぼくの色だけにしてくれ」
     麻弓の腕を強く掴む。
     項垂れる麻弓。