ユー・ガッタ・チャンス Story
scenario #6




[35]同・広大な客間
     ポーカー台、ルーレットの並んだカジノである。
     開店直後で、数人の客が遊んでいるだけ。
     裕司と夕子が入ってくる。
案内の男 「少々お待ち下さい」
     去る。
裕司 「(囁く)こういう所来たことある?」
夕子 「ラスベガスで一度だけ。カードは初めて?」
裕司 「大丈夫、7ならべなら得意だから」
     ボーイが飲み物をもってくる。
     夕子、ドライマティーニをとる。
     裕司、グラスをとる。ひと口、呑む。喉がやける。
裕司 「何、これ?」
夕子 「(さりげなく匂いを嗅いで)ブラッディーマリー、トマトジュ
     ース割り」
裕司 「……帰りたい」
     奥が華やいだ雰囲気になって、マダムが登場する。
マダム 「まァ!本当に本物ね」
     裕司に手を差し出す。
     握手する裕司。
マダム 「モニカです」
裕司 「(笑う)……光栄です」
     握手する。
     モニカもグラスをとる。揚げて、
モニカ 「私を有名にしてくれた民川君のために」
     乾杯。
     モニカと夕子、ひと息で飲み干す。
     裕司もカッコつけてグイッと飲み干す。
モニカ 「で? ……どんなゲームがお望み?」
裕司 「いや、あの……合田さんの行方探してるんです」
     途端に、モニカや周囲の人の眼が険しくなる。
夕子 「……」
裕司 「……」
モニカ 「あんな男、探してどうするの」
裕司 「……あんな男ですか」
モニカ 「あんな男よ」
夕子 「そうは思わないけど」
モニカ 「あなたは?」
裕司 「ア、あの、合田さんの−−」
夕子 「ステディ」
モニカ 「恋人?……正気なの」
夕子 「どういう意味ですか?」
モニカ 「民川裕司もあの男にのぼせてるの」
裕司 「映画監督として凄い作品を残しています。センスだって
     才能だって本物だと思います」
モニカ 「夢があれば素晴らしい作品を作れるかも知れない。で
      も、この世界はそれだけじゃ、生きてゆけないの、問題
      はハートよ」
裕司 「夢に生きるって素敵なことじゃないですか?」
モニカ 「彼は夢に生きてるんじゃないわ、夢で生きてるのよ」
夕子 「シット。あなた方は彼の作品しかみてないのよ」
モニカ 「彼は夢をお金で買おうとさえしているの。ここのオーナ
      ーから大金を前借(バンス)して、姿をくらましたってこと」
夕子 「まさか、借金の取り立てから逃げるなんて」
裕司 「チンケすぎるよ……」
モニカ 「残念だけど、その通りよ」
裕司 「オーナーに合わせてくれませんか」
モニカ 「……(見つめて)」
夕子 「お願いします」
モニカ 「(裕司に)これ以上深入りすると危険よ」
裕司 「……どうせレールを外れて走ってますから。行ける所
     まで行きますよ」
モニカ 「スターのあなたが何故?レールを外れる必要があるの?」
裕司 「さァ……意味なんかないですよ。だけどそんなことを考
     えてたら何もできないですから」
モニカ 「……(微笑)若いのね」
     モニカ、ポーカー台に坐る。
モニカ 「(裕司に)坐って」
     裕司、向かいの席に坐ろうとしてフラッとなる。
     慌てて夕子が支える。
     モニカ、真新しいカードの封を切る。
モニカ 「ポーカー、お強い?」
裕司 「……?!」
モニカ 「勝負は一回きり。あなたが勝ったらオーナーの居場所
      を教えるわ。あなたが負けたら……」
裕司 「僕が負けたら?」
モニカ 「(意味ありげに笑い)私に何をくださる?」
裕司 「僕の全て。それしかないですから」
夕子 「……(十字を切る)」
モニカ 「素敵ね。ユー・ガッタ・チャンス」
     モニカ、手つきも鮮やかにカードを配る。
     一回チェンジの5ポーカーである。
     配られたカードをそっと見る。
     −−−7・7・7・2・9
夕子 「(目をみはり、小声で)7の3カード」
裕司 「ネッ、7並べなら強いっていったろ」
モニカ 「何枚チェンジ」
     裕司、一枚だけとりかえる。
     −−−7・7・7・2・2
夕子 「(嬉しさをこらえてささやく)フルハウス」
モニカ 「(悠然と)いい、勝負よ」
     カードを一枚一枚さらしてゆく。
     −−−ハートの10、J、Q、K……。
夕子 「(蒼ざめて)もう一枚は、ハートのA、ロイヤルストレート
     フラッシュ……」
裕司 「フルハウスより強いの?」
夕子 「(泣きそうに)オフコース」
裕司 「(仕方なく)僕の負け」
     カードを投げ出す。モニカ、最後の一枚をさらす。
     −−−スペードのA。
モニカ 「あなたの勝ちよ」
     ホッと息をつく二人。
モニカ 「(大男に)案内してあげて」
     黒服の大男に案内されて出てゆこうとする裕司達に、
モニカ 「裕司君?」
裕司 「?」
モニカ 「自分を大切にネ」
裕司 「(笑って)サンクス・モニカ」
     出てゆく。
     モニカ、手のヒラに隠しておいた本当の勝負カードを出す。
     ハートのA。
モニカ 「問題はハートよ」


[36]海岸を走るロールスロイス
 A 走る車の中
     運転する黒服の大男。
     後ろの席に裕司と夕子。
夕子 「学生の頃、アルバイトで日米合作映画の契約書作る仕
     事してたのね。その縁でアメリカ・ロケのコーディネート
     をいくつか頼まれたの。合田さんだけだった。アメリカで
     自分の撮りたい映画を堂々とまくしたてたのは。この人
     とだったら凄い仕事ができるんじゃないかと思った…」
裕司 「ぞっこんなんだ、合田さんに」
夕子 「(ムキになって)誤解しないで、合田さんの事あんなふ
     うに言われるのが耐えられなかっただけ」
裕司 「同じだよ、僕も」
     夕子を見る。美しい女だ。
裕司 「レールを外れなきゃいい景色は見えないって、やっぱり
     合田さんの言った通りだ。ここん所、乾いていたからな。
     ……昨日から十時間くらい……誰かと一緒にいて、一
     緒の空気吸って、一緒にときめいて……
     こんなことこの一年なかったよ」
     夕子、裕司を見る。


 B ヨットハーバー
     ロールスロイスが到着する。
     降ろされる裕司と夕子。
     黒服の男、停泊しているクルーザーの方を指差す。

 C クルーザー
     停まっている大型クルーザー。
     船尾には、奇妙なデザインの旗が風になびいている。
     緊張した表情で、乗り込む裕司と夕子。