ユー・ガッタ・チャンス Story
scenario #8











[43]洋上
     空に、月と星と−−−−。
     漂う、小さなゴムボート。
     ピタッと身体を寄せ合って坐っている裕司と夕子。
     それに大きな布袋。
裕司 「神戸まで船で行けると思ったのに」
夕子 「(力なく)遠いわね……」
裕司 「神戸?」
夕子 「合田さん…。何だかどんどん遠くに行ってしまいそうね」
裕司 「(空気を変える様に)何か、食べ物持ってない?」
夕子 「どうかな……。(気をとり直して袋を探す)フフフ……ホ
     ラ、どうぞ」
     ポテトチップスをとり出す。
     二人、わけ合って食う。
     バリバリ、バリバリ。
夕子 「会えてよかったわ」
裕司 「俺もさ」
夕子 「本当は、ホットで、とても純情なのね」
裕司 「純情ってのはどうかな」
     裕司、チップスをくわえる。
     夕子の唇に近づける。
     夕子、少しためらってチップスの端をくわえる。
     二人、チップスを少しずつ噛む。
     口づけ−−−。
夕子 「ね、この辺サメ出るかしら」
裕司 「いや、痴漢なら出るかもしれないよ」
     裕司、上着を脱ぐ。
夕子 「−−−!」
     裕司、ズボンも脱ぐ。
夕子 「(ドギマギして)何してるの、痴漢はよしなさい」
     裕司、ニッと笑って、海に飛びこむ。
     ゴムボートの端をつかんで、足で海水をキックしながら
     押してゆく。
夕子 「ダメよ!岸につくまでに疲れて死んじゃうわ」
     裕司、黙々と足をキックしてゆく。
夕子 「民川君!ここはプールじゃないのよ!」
     夕子、真剣な裕司を見て、自分も服を脱ぎ始める。
裕司 「何してんの」
夕子 「目をとじてて。絶対見ちゃだめよ」
        ×  ×  ×
    夕子、水着姿に着替えている。
夕子 「私も手伝うわよ」
裕司 「女は黙って坐ってればいいの」
夕子 「私が泳げないと思っているんでしょ」
裕司 「どうでもいいけど、ジッとしててよ」
     夕子、裕司を見下ろして、泣きそうな顔。
        ×  ×  ×
     裕司、黙々とボートを押しつづける。
     彼方に、−−−夜の明け染める陸が見えてくる。
     気づいた夕子、歓喜の声で裕司に知らせる。
        ×  ×  ×
     海岸にたどりつく二人。
夕子 「あなたもメチャクチャな人ね」
裕司 「合田さんには負けるよ」
夕子 「でも、あなたのメチャクチャは女の子を傷つけたりしないわ」


[44]羽田空港
     間島やスタッフが集まっている。
     遠巻きに、林らのレポーターたち。テレビカメラマン。
     スクープ週刊誌の記事−−−裕司と夕子の写真入り。
     『民川裕司、謎の失踪』
     『影に美貌の女』
     持ってきたスタッフに、
間島 「(不機嫌そうに)見た。連絡は?」
     首をふるスタッフ。
     間島、時計(「十時」)を見て、イライラと、
間島 「来ても地獄、来んでも地獄か」



[45]静岡の海岸
     松の木によりかかって寝ている裕司。
夕子 「グッドモーニング」
裕司 「何時、今?」
夕子 「十時半」
裕司 「まずい。四時半までに神戸に行かなきゃ」
夕子 「大丈夫?」
裕司 「ああ。飛んでいくよ」
     裕司、大きくジャンプ。



[46]羽田空港・ロビー
     間島、イライラしながら電話している。
間島 「中止はしませんよ。ギリギリまで会場で待ちますヨ。奴
     は必ず来ます。……分かってます。覚悟はできていま
     す。ハイ(いまいまし気に電話を切る)」



 A 同・滑走路
     大阪行きの飛行機が飛び立ってゆく。


[47]国道
 静岡市内へ 
     の標識。
     「to 神戸」の看板を持って道路脇に立つ夕子。
     トラックに向かって少しだけスカートをめくる。
     トラックが停まり、ドアが開く。
     すかさず物陰から裕司が飛び出して、夕子と共に乗りこむ。
     トラックが走る。
     (ラジオから流れてくる「ラビアンローズ」)
     が、ちょっと走ったところで、停まった。
     −−−運転手が裕司を穴のあくほど見つめている。
     裕司、苦笑して夕子に耳打ちして下りる。
     スタートするトラック。
     一人取り残された、裕司。