ユー・ガッタ・チャンス Story
scenario #12

[66]ホテル・ロビーから玄関へ(翌日)
     裕司と、裕司のバッグを持った間島。
裕司 「何なのこれ。許さないよ」
間島 「自分で自分のクビ絞めたんじゃないか」
裕司 「僕は普通にやってただけだよ、普通に!」
間島 「そう、普通にしてりゃよかったんだ。女のことはこっちで
     根回ししてから発表すると言ったろ」
裕司 「ジョークじゃねェか、あんなもの」
間島 「冗談でもあんなこと記事にされたら、ファンの女の子は
     どう思うんだ!そのくらいの事考えてないのか」
裕司 「……たったそれだけで謹慎か」
間島 「それだけじゃないでしょ。昨日からの一連の、会社の方
     針を逸脱した行為。それに……マスコミの連中をあそこ
     までコケにして、病院かつぎこまれたやつもいるんだ」
裕司 「ただ走ってただけじゃないか」
間島 「もういい!ファンやマスコミが大事にしてくれたお前のイ
     メージは全部吹っ飛んだよ」
     玄関にはツアーの車両が数台待っている。
     間島、裕司のバッグを積み込む。
間島 「乗れよ」
裕司 「………」
     バッグを持つ。
間島 「帰らないのか」
裕司 「………」
間島 「お前一人の力で挽回できると思ってんの?あ?できる
     もんならやってみな」

裕司 「歌うところなくて、何もかも奪われて、それで何ができる
     んだ」
     間島、車にのりこむ。
間島 「それはこっちの言いたいセリフだろ。俺のバンドのメン
     バーも、他のスタッフも、……何十万のファンも。みんな
     同じだ」
裕司 「………(胸をつかれる)」
間島 「裕司、お前は光だ。俺たちは影だ。光がなければ、影は
     ない。闇だ」
     車がスタートする。車窓から、一人居残った裕司が遠ざ
     かる。


[67]神戸・中突堤
     夜の港。霧笛。
     長い影。さまよう裕司。
     あてもなく傷心のまま−−−。
     フッと見ると、彼方に女が佇んでいる。
     夕子。−−−。
     裕司、靴をコツコツと鳴らす。
     夕子が気づいた。
     弱い微笑−−−。
裕司 「合田さんは?」
夕子 「こっちからサヨナラいってきたわ」
裕司 「………」
     離れた所で、本郷三兄弟が見張っている。


[68]ポートターミナル駅・ホーム
     モノレールにのりこむ裕司と夕子。
     一瞬遅れて三兄弟がやってくるがまにあわない。
     悔しがる三兄弟。


[69]カフェバー「アイランドカフェ」
     人々に背を向けて、片隅の裕司と夕子。
     長い沈黙。
     モニターテレビから、裕司のライブが流れている。
     誰も裕司には気がつかない。
夕子 「……今は映画より金がほしいって言ったわ」
裕司 「……」
夕子 「モニカが言った通りね。ロマンのかけらもない男」
裕司 「……」
     落ち込む。
夕子 「ショック?」
裕司 「ダブル」
夕子 「ごめんね。あなたも大変だったんでしょ。噂には聞いて
     いたけれど日本のマスコミってクレージーね……」
裕司 「関係ないよ。……もう関係ない」
     疲労と失望感で元気がない。
     夕子、裕司を見つめ、その手をやさしくつつむ。やわら
     かな温かい感触。
裕司 「……」


[70]ホテル・一階ロビー
     エレベーターが開く。夕子がのりこむ。
     ルームキーを渡す裕司。
裕司 「じゃ明日」
夕子 「グッドナイト」
     夕子、小さく手を振る。
     裕司、手を挙げて出口へ向かう。
     フッと立ち停まる裕司。
裕司 「……」
     エレベーターに走る。
     同時にエレベーターが開く。
     夕子は、待っていた。


[71]同・一室
     窓辺に立つ裕司と夕子。
     神戸の夜景が美しい。
     夕子、裕司のシャツの中に指を差し入れ、裕司の分厚
     い胸に口づける。
裕司 「……(胸が高鳴る)」
     部屋の向こうに、ベッドが見える。思わず目を閉じる裕司。
夕子 「潮の香りがする」
裕司 「ずっと、知り合ってから海の傍にいたから」
     口づけ。むさぼるように−−−。
        ×  ×  × 
     ベッドで。
     一枚のシーツに、素裸でくるまった裕司と夕子。
     みつめあったまま。
裕司 「……え?」
夕子 「……ん?」
裕司 「……何?」
夕子 「どうして?」
裕司 「……いや」
     軽いキス。
     夕子、布袋から一通の書類を出す。
裕司 「何これ?」
夕子 「契約書よ、合田さんの映画の」
裕司 「アツアツの恋人かと思ったら、本当はビジネスライクの
     つきあいだったんだ」
夕子 「……(曖昧に)ええ、まァね」
裕司 「(ホッとして)俺、気つかっちゃって、馬鹿みたい」
夕子 「……(フッと翳がさす)」
     裕司、元気づいて、フロアに下がり、ドリンクを飲み干す。
裕司 「そいで、その契約書、監督に見せたの」
夕子 「見せたワ」
裕司 「なのに、なんで蹴っちゃったのかな」
夕子 「彼が考えてたのは、一千万ドル」
裕司 「二十三億」
夕子 「くらいの映画だったの。でも実際にエージェントがオー
     ダーしたのは、十分の一の低予算で、しかもショッカー
     なの。恐怖映画ね」
裕司 「(突然、口笛)シビレるなァ」
夕子 「え!?」
裕司 「分かっただろ、あの人は金で買えるようなチッポケな夢
     には興味ないんだ。夢を金で買うような事はしないよ」
夕子 「……」
裕司 「畜生。惚れ直しちゃったよ。(パッとベッドに飛びのって)
     今から会いにいこうよ!決めた!」