ユー・ガッタ・チャンス Story
scenario #14
[74]古いホテルの外 本郷三兄弟が慎重に歩み寄る。 ホテルの中を探し回るが、誰もいない。テラスに裕司が いた。 壁に凭れ、靴をコツコツ鳴らしている。 二佐 「合田は?」 裕司 「……」 いきなり一佐が近くの物に鉄拳をぶちこむ。 周囲の物が音を立てて崩れる。 二佐 「合田は?」 裕司 「……」 三佐の投げたダーツが、裕司の喉をかすめて壁に突き 刺さる。 二佐 「ラストチャンス。合田は?」 裕司 「……」 ピタッと靴をとめる。 三佐、ダーツを投げる構え。 裕司。その喉元。 三佐、ビュッとダーツを投げる。 瞬間、裕司は跳躍して頭上の鉄柵につかまり、懸垂し て這い登り、アッという間に階上に駈け去る。 三兄弟が迂回して追う。 裕司、建物の外側の構造をうまく利用して、上へ上へと 伝い登る。軽快な身のこなし。 本郷三兄弟が必死に追う。 屋上で裕司の姿が忽然と消えた。 ホテルの裏は、深い森林。 かがみこんだ三佐が、裕司を発見した。 裕司は屋上からロープを伝って下の部屋の窓に入りこ もうとしている。 三兄弟、急いで引き返す。 中二階のガランとした部屋に、裕司はいた。 背中を向けて座っている。 三兄弟がゆっくり歩み寄る。 二佐 「合田は?」 一佐、ファイト用の鉄製グローブを指にはめる。 ダートを手にする三佐。 裕司がゆっくり振り返る。 その手に拳銃。合田が残したオモチャ。二佐にピタリと 照準を向ける。 左手には「二千万」の小切手。 三兄弟、せせら笑い、にじり寄る。 裕司、ゆっくり引き金を絞りこむ。脂汗がにじむ。 見すかしたように至近に寄る三兄弟。 が、銃口を見ていた二佐が急に硬張る。 一佐と三佐を引きとめる。 三佐、おっかなビックリ小切手をつかむ。 二佐 「クルーザーを港から出す時間だ」 出口に向かう。 一佐と三佐、裕司を睨みつけて二佐の後を追う。 裕司 「(ホッとして)オモチャだよ。バカ」 指で拳銃をクルリと回して、そのままフロアに落とす。 途端に暴発した。 弾は、合田の夢をくだくように、建物のモデルをコナゴナ にふきとばしてしまう。 仰天してハネ飛ぶ裕司。 外に出ていた三兄弟は、脱兎の如く走り去る。拳銃は 本物だった。 胸をなでおろした裕司は、クックッと低く嗤いつづける。 泣いているようにもみえる。 × × × 裕司、ステージのある広い部屋に入ってくる。こわれか けた古いピアノの前に坐り、指一本でキーを叩く。それ がいつかメロディとなり、詞がこぼれおちる。 「レイニーレイン」を歌い始める裕司。 × × × 朝の光につつまれた古いホテルが俯瞰になる。 彼方にひろがる神戸市街、そしてきらめく海。 |